【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□優しい神様
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ああ、また・・・

驚いた表情のはくたくさまがこちらに走り寄ってくる。

「は、はくたくさま・・・」

自分の服が汚れるのも構わずに、わたしに合わせて膝を折る。

「あの・・・わたし・・・」

「大丈夫?ほら、見せてごらん・・・」

掛けられた言葉は叱責のそれではなく、わたしを心配するもの。

血が滲む膝と腕の傷を指でなぞり、あっと言う間に消してしまった。

「さあ、着替えよう。随分汚れてしまったね。」

そう言っている間に、桶が独りでに動き出し、元ある場所に戻った。

どこからか吹いてきた温かい風が室内を満たす。

みるみる乾いていく畳や襖に目を見開く。

神の力だろう。

「ほらほら、おいで。」

私の手を引いて奥の部屋に向かう。

「はくたくさま、ごめんなさい・・・」

「ん?」

「いつもいつも、丁は・・・っ・・・」

涙が溢れてきて、言葉に嗚咽が混じる。

自分が情けなくなり、俯いてただただ涙を流す。

「丁・・・」

目の前にはくたくさまがしゃがんだのが分かった。

瞬間、わたしは彼の胸に抱き込まれた。

「いいんだよ、お前に怪我が無くて良かった。」

ぽんぽん、とあやす様に背を叩かれる。

優しい声と仕草に更に涙が溢れる。

「ど、して・・・っ・・・丁を、っ・・・叱らないのですか・・・っ、こん・・・な、失敗ばかり・・・っう・・・」

嗚咽が邪魔して言葉が紡げない。

「はく、たくさまは・・・丁の、出来が・・・余りに悪いから、落胆したのですか?叱る価値も無いと・・・っ丁には、何の価値も・・・っ」

言葉にしていくうちに、胸の奥が締め付けられる。

はくたくさまの服に涙が染み込んでいく。

けれど、今はそんなこと気に掛けていられない。

次々と涙が流れ落ちる。

「丁、聞いて・・・」

大きな手が、わたしの頭を優しく撫でる。

「丁が出来ない子だなんて、一度も思ったことは無いよ。僕にはお前を叱れない・・・だって、」

更に強く抱き締められる。

「お前はもう、これ以上に無いくらい叱られただろう?殴られただろう?痛い思いをしただろう?・・・もう、十分じゃないか・・・っ」

「はくたく、さま・・・?」

「僕は、お前が抱えてる苦しみを消したいんだ・・・何にも怯えずに済むように・・・」

喉の奥から絞り出したような悲痛な声。

はくたくさまのこんな声、聞いたことない。

「お願い、何の価値も無いだなんて言わないで・・・お前はいい子だよ、誰よりも。」

「・・・・・・。」

「失敗したときは、もう一度やり直せばいいんだよ。何も悪いことじゃない・・・」

はくたくさまは、ゆっくり身体を離すと、切れ長な目でわたしを見つめる。

その、黒曜石のような美しい瞳に吸い込まれそうになる。

綺麗な瞳が、いつもの様に柔らかく細められていく。

「お前にはずっと笑っていて欲しいんだ。これから先ずっと、一緒に・・・」

目尻に溜まった涙を、柔らかい指先が掬い取る。

そしてもう一度、優しく抱き締められる。

甘い花の香りがわたしを包む。

「ごめんなさい、はくたくさま。わたし、勝手に・・・」

「いいの、いいんだよ。」

そう言いながら、いつまでも、わたしの背をさすってくれていた。

良かった、嫌われていた訳では無かったようだ。

はくたくさまの言葉に、酷く安心した。

彼は、本当に優しい人だ。

言葉や仕草や笑顔・・・

その全てが、わたしの固く閉ざされた心を開いていく。

彼が神だからとか、そんな理由ではない。

それは、わたしには持っていないものを全て持っている彼だからこそのこと・・・

「さあ、おいで。」

差し出された大好きな神様の手をしっかりと取った。

柔らかく暖かい手が、わたしの小さな手を包み込むように握った。














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