【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□優しい神様
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太陽が顔を出して数刻、眠い目を擦りながら布団から抜け出す。

箪笥から着物を引っ張り出して着替え、布団を押入れに上げる。

鏡台の前で寝癖を直し、髪紐で結う。

「良い匂い・・・」

みそ汁の良い香りに釣られるように台所に向かった。

「おはようございます、はくたくさま。」

「あ、おはよう。起こしに行くまで寝てて良いのに。」

お玉を持ったはくたくさまが漢服を翻しながら、わたしを振り返る。

「そんな訳にはいきません。丁もお手伝いします。」

「ふふふっ、ありがとう。じゃあ、井戸からお水を汲んで来てくれるかな?」

「はい。」

桶を受け取り、勝手口から出て庭にある井戸へ向かう。

井戸の蓋を開け、吊るされていた釣瓶を取って、井戸の中へ放り込む。

水で満たされた釣瓶を力一杯引っ張る。

持って来た桶へ水を移し、また釣瓶を井戸へ放る。

これを桶が水で満たされるまで繰り返す。

なかなか大変だ。

だけど、苦痛だなんてこれっぽっちも思わない。

何故かというと、

わたしはある村で召使いとして働いていた。

朝から晩まで、掃除・洗濯・炊事に追われ目まぐるしい日々を送っていた。

だから、こういうことには慣れている。

唯一、わたしが他人に自慢できそうなことだ。

でも、

何か失敗をすると、主人に殴られ蹴られる。

仕置きという名のただの暴力。

些細なことだろうが大きなことだろうが、関係なかった。

そんな生傷が絶えない毎日に嫌気が差した頃、はくたくさまと出会ったのだ。

この人に拾われ、一緒に暮らして早一年。

彼は当初、子どもだから家のことは何もせずに遊んでいれば良いと言っていた。

そんなはくたくさまに、わたしは首を横に振り続けた。

助けてもらった時から、この人に尽くすと決めていた。

だから、それだけは譲れなかった。

そうしたら、はくたくさま綺麗な笑みを湛えて

「それじゃあ、少しずつお願いしていこうかな?」

と言ってくれた。

そして、本当に少しずつだが、わたしに仕事をくれた。

ある日は花の水遣り、ある日は風呂焚き・・・

でも、やはり失敗はしてしまうもので・・・

皿を割ったり、鍋を焦がしたり・・・

挙げ出したら限がない。

でも、はくたくさまはいつも笑顔で許してくれる。

どんな失敗をしても、決して怒らない。

・・・そういえば、わたしは彼に叱られたことが無い。

「・・・・・・。」

よいしょと重くなった桶を抱え上げて、元来た道を歩き出す。

桶の水がちゃぷちゃぷと音を立てる。

今までは、叱られるのが当たり前だったから、何だか変な感じだ。

もしかして、はくたくさまは・・・

「そんな、わけ・・・」

あるわけない、と頭を振る。

桶を落とさないように気を付けながら、勝手口の扉を開ける。

「だたいま戻りました。」

「おかえり、重かったでしょ?ありがとう。」

「いいえ・・・っあ!」

ぐん、と身体が揺れた。

敷居に躓いてしまい、身体が前のめりになる。

桶が手から離れ、床に落下する。

大きな音を立てて桶が床に転がる。

水が勢いよく撒かれ、辺りは水浸しになった。

その水浸しの所に倒れ込む。

膝や腕に焼けるような痛みが走った。

頭から血が引いていくのを感じた。
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