【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□天帝からの忠告
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「天帝・・・まずは、参上が遅れましたことをお詫び申し上げます。」

天帝の前で膝を折って跪く。

「よいよい、そなたは相変わらず堅いな。」

盃を揺らしながら高らかに笑う天帝。

「ありがとうございます。お言いつけ通り、本日は鬼灯を連れて参りました。」

鬼灯を見やると、天帝の気迫に押されているのか、若干足が竦んでいるように見える。

「鬼灯、天帝にご挨拶しなさい。」

安心させるように、背に手を添えてやる。

「は、はい。天帝・・・お初にお目にかかります・・・わたくし、鬼灯と申します。」

深く頭を下げる鬼灯。

「子どもながらに礼儀をよく弁えておるな。どれ、近くに来なさい。」

天帝が鬼灯を手招きする。

「鬼灯、お行き。」

不安げな鬼灯の背を笑顔で押してやる。

「はい・・・」

恐る恐る天帝の方へ歩いていく鬼灯。

「心配せずとも取って食ったりはせんよ。」

天帝は、すぐ近くまで来た鬼灯を軽々と抱き上げ、膝に乗せた。

「あ・・・あの・・・」

「ん?白澤の膝でないと嫌か?」

冗談めいて笑う天帝。

「い、いえ・・・!あの・・・そのような・・・」

「ははは、少し冗談が過ぎたな。・・・ときに白澤、私のことは鬼灯に聞かせたか?」

ちらりと僕に目を向けられる。

「いえ、まだ聞かせておりません。」

鬼灯には今日、天帝と顔を合わせながら聞かせようと思っていた。

「そうか。ならば私から聞かせよう。鬼灯よ、そなたは死んで鬼へと生まれ変わったな。そなたの中に宿っておる鬼火だが、私が遣わせたものだ。」

「え・・・?」

「そなた、生前の記憶があることに疑問はなかったか?」

「・・・ありました。白澤様の名が口を突いて出たときは驚きました。本来は記憶は抹消されてしまうのですよね?」

「そうだ。だが、記憶を残したまま転生できるよう、鬼火にまじないを掛けたのだ。そなたと白澤は強い信頼で繋がっておる。この先も共に在って欲しいと思ったがためのことだ。」

「・・・!ありがとうございます!」

「立派に白澤を支えるのだぞ?」

「はい!」

鬼灯は満面の笑みで天帝を振り返る。

天帝はそんな鬼灯の頭を撫でている。

その様子に口元が勝手に緩んでいく。

「鬼灯よ、腹は減っておらぬか?」

「あの・・・少し・・・」

「それは良かった。庭の果物が豊作でな。食っていくがよい。」

「よろしいのですか?」

「ああ、そこの者と先に行っておれ。私は白澤と話しながら後を追う。それでよいな?白澤よ。」

「仰るとおりにいたします。」

天帝は鬼灯を控えていた侍女に預け、部屋を出て行くのを見送る。

「さて・・・白澤よ。」

「はい。」

「あの子は実に可愛らしい。お前が手放したがらないわけだな。」

「私も、ここまで陶酔してしまうとは思っていませんでした。」

「せっかく、再び肩を並べてやったのだ。思うが儘謳歌するがよい。」

「・・・本当に、感謝しております。」

再び跪いて深く深く頭を下げる。

「だが、忠告しておくことがある。」

天帝の声音が変わり、顔を上げる。

「何でしょうか?」

「あの子の鬼火は私の力が加わっているとはいえ、酷く脆い。心や体の負担が募り続けると、簡単に崩れてしまう。」

「・・・」

「よいか、あの子の拠り所は後にも先にもそなただけだろう。しかと見守ってやれ、片時も離れずにな。」

「心得ています。」

「そなたは神だ。その気になれば危惧しておることも退けられるだろう。」

「・・・・・・はい。」

天帝の言葉の一つ一つが脳に刻み込まれていく。

これで、僕に科せられた使命が明白になった。

鬼灯に寄り添って守り抜く。

もし、鬼灯が苦しみもがくことがあろうことならば、僕は躊躇うことなく神の力を解放するだろう。

天帝が自分の力を使ってまで僕たちを導いたのだ。

決して無駄には出来ない。

「さて、堅苦しい話は仕舞にして、鬼灯のもとに行くか。」

天帝は着物を翻して、颯爽と歩き出した。

その後ろ姿に向かって、もう一度頭を下げた。
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