【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□鬼の子
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更に時が経ち、丁が死んでから今日で5年になる。

一昨日から妙な胸騒ぎがしてならない。

しかも、日に日に増している。

胸の辺りがもやもやする。

天変地異の前触れかと思ったが、そうではないらしい。

そして、あることに気付く。

この胸騒ぎ・・・あの子が死んだ時刻になるとやってくる。

ふと、時計を見る。

やはり・・・

だいたい、未の刻を示している。

偶然なわけない。

丁が、何か訴えてる?

そんな気がして、急いであの子の墓に向かう。

墓に近づくにつれ、強くなる胸騒ぎ。

そして・・・驚いた・・・

墓石に掘ったはずの丁の名前が消えかかっている。

今日の朝は何も変わっていなかったのに。

「丁・・・?どうしたの?」

返事はない。

「お腹空いた?もう夕餉にしようか?」

墓石が気になりながらも、いつも通りに話し掛ける。

「・・・ちょっと待っててね。」

違和感を覚えながらも、取り敢えず、夕餉の支度をすることにした。










結局、墓石の謎は解けぬまま床に就くことになった。

名前が消えてしまうなど、想像もしていなかった。

もしかして、丁が丁でなくなってしまうのか・・・?

転生する前触れかもしれない。

人の死は何度も見てきたが、こんなのは初めてだ。

気になって、放り出されていた転生についての書を引き寄せて項をめくる。

が、どれだけ読み込んでも欲しい答えは載っていなかった。

なんだか複雑な気分だ。

まだ転生するか分からないのに。

ねえ、丁・・・

もし、転生したら・・・

お前は、何に生まれ変わるのかな?

僕はお前を見つけられるかな?

・・・きっと、会えるよね?

書を閉じて布団を被る。

とにかく、明日起きたらすぐに丁に会いに行こう。

色々、訊いてみよう。

自分にそう言い聞かせて無理やり目を閉じた。

随分長い夜に感じた。









やっと長い夜が明けた。

急いで身支度を済ませて、丁の元へ赴く。

僕の目が驚愕に見開かれる。

墓石が、粉々になっていた。

「丁!」

墓の前で膝が折れる。

空っぽだ・・・

ここには、何もない・・・

何も感じない。

丁を、感じない。

「丁・・・?どこに行ったの?」

墓石の欠片を手に取る。

やはり、転生したのだろうか?

新たな生を手に入れ、本来なら喜ぶべきことなのに、酷く心が寒い。

「丁・・・」

これからどうしたものか・・・

そんなことを考えていると、花壇の真裏から小さな音がした。

「・・・?」

うさぎが居るのだろうか?

重い腰を上げる。

音の正体を確認するべく、花壇の柵に沿って足を進める。

そして、再び僕の目が見開かれていく。

「・・・!!」

そこには幼子が蹲っていた。

こちらに背を向け、僅かに震えている。

「・・・丁・・・?」

思わず声を掛ける。

幼子は僕の声にぴくりと反応し、ゆっくりと振り返った。

「ぁ・・・」

間の抜けた声が出てしまった。

その子は、丁にあまりにも似ていた。

しかし、額に1本の角があった。

耳は人のそれとは異なり、尖っている。

鬼の子だ・・・

「丁・・・なの?」

恐る恐る話しかけてみる。

「・・・・・・はくたく・・・さま?」

その小さな唇から、僕の名前が紡がれた。
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