【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□わたしの死
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「丁!丁!!」

ぐったりとした身体を抱き起こし、そっと揺する。

丁の瞳がゆっくりと開かれる。

その瞳には光が宿っておらず、虚ろだ。

まじないのお陰で傷は塞がっているが、生気は弱ったままだ。

「丁・・・僕が分かる?白澤だよ!!」

「はく・・・た・・・さ、ま・・・」

切れ切れに言葉を紡ぐ丁を抱き締める。

「痛かったね・・・苦しかったね・・・もっと早く気付いていれば・・・ごめん・・・ごめんね・・・」

涙が零れ、丁の頬を濡らす。

泣くなんて、何百年振りだろうか。

「泣か・・・な、で・・・」

丁の小さな手が伸ばされ、頬に当たる。

冷たい・・・。

「ごめ、なさ・・・ぃ・・・夕餉、作れな・・・か・・・た・・・」

「そんなのいい!また今度作って・・・ね?」

僕の言葉に、丁は悲しげに微笑む。

「わたし・・・もぅ、だめ・・・みたぃ・・・です・・・」

「そんな・・・そんなこと、言わないで・・・」

生気が、どんどん小さくなっていく。

どうしても戻らない・・・。

理由は明白。

傷の治癒が遅れたのと、大量に出血した所為だ。

ここまで衰弱していたら、もう、生きれる見込みは・・・ない。

分かっているが、認めたくない。

この子が、死ぬなんて・・・。

僕の目の前から居なくなるなんて。

こんなに早く、しかもこんな最悪な形で。

認められない、こんなの・・・。

どうすることも出来ず、地面を殴りつける。

「はく・・・たく、さま・・・いってらっしゃい、してくださ、ぃ・・・」

僕の漢服を弱い力で握り締める、両手。

胸が締め付けられる。

『いってらっしゃい』をしてしまったら、丁の死を受け入れることになる。

そんなの耐えられない・・・。

嗚呼・・・なんと情けない神だろうか。

死を否定してはいけない、などと教えたのは自分なのに、動揺を隠せない。

でも、誰よりも大切な丁・・・。

絶対に手放したくない。

それでも・・・他でもない丁が望むなら・・・

「丁、怖い?」

僕の言葉に、丁は首を横に振る。

「怖いことなど、ありません・・・わたしには・・・はく、たくさまが・・・います・・・死んだ後、だって・・・一緒に・・・いま、す・・・」

弱々しく微笑む丁。

「ですから・・・はくたくさまも、わたしと・・・ずっと・・・一緒に、いてください・・・」

丁をきつくきつく抱き締める。

そして、その頭をこれ以上にないほど優しく撫でる。

「うん・・・うん・・・っ・・・」

柔らかい髪に頬を擦りつける。

丁は満足げに微笑む。

「大好きです・・・はくたく、さま・・・最期に・・・顔、見れて・・・頭、撫でてもらえて・・・よか・・・った・・・」

服を掴んでいた手がずるりと落ちる。

大きな瞳は閉じられ、二度と開かれることはなかった。

「丁・・・?丁!」

いくら揺すっても、動かない。

もう、生気を感じることが出来ない。

小さな身体を抱く両腕が震える。

「うっ・・・うわああぁぁぁああんっ!!」

声をあげて泣く。

僕の涙が丁の顔を濡らす。

ごめん、ごめんね・・・・・・

やっぱり、あの日・・・まじないを掛けておくべきだった。

禁忌とされる死を退ける神のまじないを。

でも、もう遅い。

丁は死んでしまった・・・。

もう、この腕の中で笑ったり泣いたりすることは、無い。

肩を震わせて泣いていると、背後から落ちついた声がした。

「白澤よ、そなたが丁と交わした約束・・・忘れるでないぞ。」

麒麟の言葉にはっとする。

『いつか、わたしが死んでも・・・この子みたいに、お見送りしてくれますか・・・?いってらっしゃい・・・って言ってくれますか・・・?』

『はく・・・たく、さま・・・いってらっしゃい、してくださ、ぃ・・・』

丁の言葉が蘇る。

顔を見ると、ひどく安心したような表情だ。

痛くて、苦しかった筈なのに・・・。

「お前を信用しているんだよ。だから、ちゃんと言ってあげて・・・」

鳳凰が丁の額に張り付く前髪を掃う。

丁をしっかり抱き直して頭を撫で、その顔を見て微笑む。

「・・・いってらっしゃい、丁・・・ずっと一緒にいるからね?大好きだよ・・・」

そっと額に口付け、もう一度抱き締める。

「そなたの庭で手厚く葬ってやるが良い・・・」

「お前の庭、綺麗な花がたくさん咲いてるもんね・・・。丁も喜ぶと思うよ。」

「そうだね・・・ありがとう、二人とも・・・さあ、丁・・・家に帰ろう。」

軽い身体を抱き上げて、落ちている籠を拾う。

「儂らも共に行こう。」

「うん・・・。」

こうして、僕らは家に帰った。

丁は仲良しだったうさぎのすぐ隣に埋めてあげた。

彼が持っていた籠に溢れんばかりの花を入れて墓前に供える。

木の実をたくさん入れた、丁が気に入っていた巾着も一緒に。

「お前に永遠の安息と歓びを・・・そして、どうか僕を・・・忘れないで・・・」

墓に向かって安息のまじないを掛ける。

麒麟も鳳凰も思い思いにまじないを掛け、祈りを捧げていた。

「丁は転生するのかな?」

「無念過ぎる死だから何とも言えぬな・・・。いつか、何らかの形で会うことは出来るだろう・・・。いつになるかは分からぬが・・・」

「どんなに先でも良い・・・僕は信じて待ち続けるよ。いつまでも・・・」

僕の言葉に二人は微笑みながら頷いてくれた。

「さて、儂らはこれで帰るとしよう。」

「白澤、毎日丁と話してあげなよ。」

「うん、ありがとう。気を付けてね。」

二人を見送った後、再び墓に向き直る。

「丁、毎朝お話に来るからね。ご飯もちゃんと作ってあげるから楽しみにしててね?」

微笑みながら墓石を撫でる。

不思議と、もう涙は出なかった。

形はどうあれ、いつか必ず会えるから・・・。

お前が僕のことを覚えていなくても、それでいい・・・。

また一緒に暮らそう。

二人で楽しく、幸せに。

もう二度とお前を苦しい目に遭わせたりはしないから。

僕は、待ってるよ。

いつでも帰っておいで。











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