【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□わたしの死
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ここは天界。

月に一度、こうして集まって研究の成果を話し合っている。

とは言っても、話し合いはものの数時間で終わってしまい、今は麒麟は酒を仰ぎ、鳳凰は寝そうだ。

そろそろお開きか、と思い始めたとき・・・

「ッ?!」

頭が、割れるように痛い。

気持の悪い胸騒ぎもする。

「白澤よ、どうした?」

僕の異変にいち早く気付いた麒麟が声を掛ける。

「いや、なんか・・・痛ッ?!」

額の目が独りでに開眼し、ぎょろりと蠢く。

「ぁ・・・」

額の目から脳へ何かが送られてくる。

「人の姿のままでその目が開くということは、何か良からぬことが起こっているね・・・」

事態を見かねた鳳凰も近寄ってきた。

「白澤、何か視えぬのか?」

全神経を集中して、脳に流れ込んでくるものを視ようとするが、何も見えない。

どす黒い赤色が脳内を埋め尽くしている。

『・・・さ、ま・・・』

「!!」

聞こえた。

あの子の声が・・・

でも、おかしい・・・

声が酷く弱々しい。

続いて、丁のものと思われる生気が流れ込んできた。

なんて、弱い・・・

こんなに弱っていたら、いつ消えてもおかしくない。

「丁!!」

丁に何かあったんだ・・・

こうしてはいられない。

「ねえ、丁って・・・」

「あやつが愛でておる人間の子だ。だが、酷く衰弱しておる・・・」

「うん、どうしたんだろうね」

彼らも丁の生気を感じたようだ。

「麒麟、鳳凰・・・僕、帰るね。」

獣の姿に戻り、現世へと急ぐ。

あの子の・・・丁の生気を探りながら。

「こんなに弱って・・・」

何があったというのか・・・

相変わらず、状況は全く掴めない。

とにかく、急がなければ・・・

丁の所に・・・!

暫く上空を飛んでいると、丁の生気を一際強く感じる場所へ辿り着いた。

酷く弱っている生気がひとつと、もうひとつ別の生気がある。

あそこに丁が居るに違いない。

逸る気持ちを何とか抑えて高度を下げる。

そこに見えたものは・・・

「ッ?!!」

赤の中に横たわる小さな身体。

その横には不気味な笑みを浮かべて酒を煽る男・・・

・・・男の傍らには、酒瓶と・・・血にまみれた短剣。

全身の毛が逆立つ。

丁を殺したのは、こいつだ。

脳裏で何かがそう叫ぶ。

慌てて、丁の元に駆け寄る。

その小さな身体には無数の刺し傷。

瞳は虚ろで、辛うじて僕の姿を捉えていた。

変わり果てた丁の姿に目を見開く。

「・・・く、さ・・・ま・・・?」

血だらけの唇が小さく動き、僕の名を紡ぐ。

良かった、まだ生きてる・・・

すぐさま、回復のまじないを掛ける。

「この餓鬼・・・まだ生きて・・・!」

男は目を血走らせて、再び短剣を握り、丁に近づこうとした。

僕は、そいつを睨み付け、丁を背に隠すように前に立ちはだかる。

鋭い牙を剥き、威嚇する。

「なんだ、お前?その餓鬼の飼い犬か?」

「・・・・・・」

そっと、獣の姿から人の姿へ変わる。

「道化師かぁ?そりゃめでてぇ!なら、そこの死にぞこないの為に一曲舞ってくれよ!あははははははは!!!」

酒に酔った男は半狂乱に叫ぶ。

「ふざけるな・・・」

全身の血が滾るのが分かる。

言いようのない怒りが身体を支配する。

『殺せ』

脳が、否、本能がそう告げる。

気付いた時には身体が動いていた。

目にも止まらない速さで、男の懐に入り、短剣を奪い取る。

その短剣を男の目に目掛けて渾身の力で突き刺す。

「あ・・・?ゔああああああぁぁぁッッ!!!!」

吹き出す血に転がる目玉。

痛みで声を上げる男。

嗚呼、なんて醜い・・・

さぞかし痛いだろうね。

でも、当然だよね?

僕の大事な丁を苦しめたんだから。

これ以上にない痛みと苦しみと共に死ぬがいい。

静かな森に肉が裂ける音と骨が砕ける音、内臓が潰れる音、そして男の断末魔が木霊する。

男の汚い血が水の様に辺りに撒き散らされる。

「・・・・・・もう、よかろう・・・白澤よ。」

返り血で汚れた漢服の裾が引かれた。

振り返ると、麒麟と鳳凰の姿。

舌打ちをして、人間の原型を無くしたそれを見下ろす。

「・・・これは僕らが片付けるよ。お前は丁の所へ行ってあげて・・・」

鳳凰の言葉に我に返り、丁の元へ走る。
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