【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□わたしの死
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「!!」

誰・・・?

振り向くと、そこには酒瓶を携えた背の高い男が立っていた。

「丁か・・・と訊いている。」

思考が追い付かない。

何故、わたしの名を・・・?

まさか・・・・・・

「ぁ・・・の・・・」

そんな筈、無い・・・・・・

でも、この男の顔に見覚えがある・・・

「恩を忘れたか?この痴れ者め・・・」

籠が音を立てて地面に転がる。

やっぱり、そうだ・・・。

その男は、2年前に逃げ出してきた村の長だった。

「お前のような奴がまだ生きていたとはな・・・」

「ぁ・・・」

言葉が出こず、ただ後ずさることしかできない。

助けを呼びたいのに、声が出せない。

怖い、怖い・・・っ・・・

近づいてくる男の足音がやけに大きく聞こえる。

「お前は村の儀式の生贄だった。だが、我々の目を盗んで逃げだした。」

淡々とした男の口調に恐怖が増す。

「来な・・・で・・・っ・・・」

「お前は助けてもらっておきながら、村を見捨てて逃げた。そうだな・・・?」

「ッ!!」

恐怖のあまり、腰が抜けその場にへたり込む。

この、追い詰めるような口調や態度。

村で受けた、仕置きと称した暴力の数々が脳を駆け巡る。

「や、ぃや・・・助け・・・」

「お前のような裏切り者、生かしておくわけにはいかない。」

懐から取り出された鋭い短剣。

「!!!」

「ここで死ねば、罪を償ったということにしてやる。」

何が裏切りだ・・・

何が罪だ・・・

雨乞いの生贄と称して殺そうとしたくせに。

今だってそうだ。

適当に理由を付けてわたしを殺したいだけ。

そんなに自分は要らない存在なのか・・・。

涙が溢れ出る。

鈍く光る短剣の切っ先が自分に向けられ、近づいてくる。

嫌だ。

助けて・・・

誰か・・・

大好きな神様の顔と言葉が浮かんだ。

『『死』は誰もが必ず経験すること。それが、自然の摂理。抗ったり、否定したりは出来ないんだ・・・こればかりは、神の僕にもどうしようも出来ない・・・』

はく・・・たくさま・・・

死には抗えないことは知っている。

でも、

「死にたくない・・・」

やっと吐き出せた言葉。

「往生際の悪い餓鬼だ。いい加減にしろ!」

男が大声で怒鳴り、短剣を振り上げた。

「やめ・・・ゔぁ・・・ッ!」

刃が肩の肉を引き裂き、嫌な音を立てる。

男は狂ったようにわたしの身体を刺し続ける。

「ぁ・・・ッッ・・・」

痛い、痛い、痛い・・・ッッ・・・

嫌だ・・・

はくたくさま・・・

神様・・・ッ

お願いです・・・助けて・・・

「はくたくさまああああぁぁぁぁッッ!!!」

口から血が零れ落ちるのも構わずに、渾身の力で大好きな神様の名を叫んだ。

「・・・死ね。」

腹に重い痛みを感じ、目を見開く。

「ゔぁ・・・ぁ・・・」

ぼたぼたと夥しい血が地面に落ちる。

力が抜けきった体は重力に従い、顔から地面へと崩れ落ちる。

男はというと、息を荒げたまま不気味な笑みを浮かべて、こちらを見下ろしていた。

まだ、わたしに息があることに気付いていないようだ。

男はその場に座り込み、血の付いた短剣を傍らに放り投げ、持っていた酒を煽り始めた。

それにしても、寒い。

さっきはあんなに暑かったのに、今は凍えてしまいそう。

あんなに痛かったのに、もう痛みは感じない。

感じるのは、身体から何かが抜けていくような脱力感。

きっと、このまま死ぬのだろう。

白から赤に染まってしまった着物をぼんやりと眺めて、そんなことを考える。

この着物、はくたくさまに仕立ててもらったのに・・・。

そして、側に転がる籠に目をやる。

あの山菜で・・・夕餉を作る筈だったのに・・・

どうして、こんなことに・・・?

うさぎにも・・・もう、会えない・・・

視界が涙でぼやける。

はくたくさま・・・

こんな無残で醜い最期でも・・・

貴方は笑って『いってらっしゃい』をしてくれますか・・・?

頭を撫でて、抱きしめてくれますか・・・?

きっと、きっとそうしてくれますよね・・・?

あのうさぎとお別れした時に約束しましたものね・・・?

貴方は前、死ぬのは遥か先だと言っていたけれど、こんなに早く訪れてしまった。

お願い・・・

早く、私を見つけて・・・

最期に、貴方の顔が・・・見たい・・・
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