【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□わたしの死
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大切なうさぎがこの世を旅立って一か月。

毎朝、欠かさずお祈りと墓の周りの草取りをしている。

今日はとても暑いので、桃とうさぎが描かれている可愛らしい湯呑に冷たい水を入れて花と一緒に備えている。

「うさぎさん、暑くないですか?欲しいものはありませんか?」

返事はもちろん無い。

でも、それでいいのだ。

わたしの声がこの子に届いていれば・・・

小さな墓の前で手を合わせ、目を閉じる。

天国で楽しく暮らせますように、と。

ゆっくり目を開けて、墓石に微笑む。

わたしは死んだこの子に対して、常に笑顔を心掛けている。

この子の死は勿論、悲しく辛いものだったが、いつまでも悲しみに浸っていたら、この子が安心出来ない。

「また明日も来ますね。良い一日を!」

笑顔で墓に話し掛け、そのまま踵を返し家の中へと戻る。

その足で、はくたくさまが居る台所へ向かう。

「はくたくさま、お祈りしてきました。」

「ああ、丁。ちゃんと挨拶できたかい?」

机に朝食を並べながら笑顔で言うはくたくさま。

「はい!今日は暑かったので冷たい水もお供えしました。」

「そう・・・丁は優しいね。きっとあの子も喜んでるよ。」

くしゃりと頭を撫でられる。

「・・・えへへ・・・」

自然と笑みが零れる。

はくたくさまに頭を撫でてもらったり、手を繋いで歩くのが大好きだ。

すごく、安心できるから。

こんなことしてくれるのは、彼だけだから。

「さあ、朝餉にしよう。」

「はい!」

返事をして椅子に座る。

「はい、たくさんお上がり。」

笑顔で箸を差し出すはくたくさま。

「ありがとうございます。いただきます!」

箸を受け取り、目の前に並ぶ美味しそうな朝食に箸を伸ばした。

暑い日に合わせたさぱりしたおかずが多くて、ついつい箸が進む。

そんなわたしの様子を、はくたくさまは頬杖をついて見ていた。

「美味しい?」

「はい、とても!」

「良かった、作り甲斐がるよ・・・あ・・・」

ふと、何かを思い出したような表情をする。

「どうされましたか?」

「丁、悪いんだけど僕、午後から少し出掛けなきゃいけないんだ。だから、少しだけ留守にしてもいいかな?」

「もちろんです。お仕事ですか?」

「うん、ごめんね・・・」

「いいのです、夕餉を作ってお待ちしています。」

はくたくさまが仕事で留守にするのは珍しいことではないし、慣れてしまった。

なのに、この方は優しいからわざわざこうして、わたしの心配をしてくれる。

「ありがとう。なるべく早く帰るようにするね。」

「はい、夕餉は何がいいですか?」

私の言葉に、はくたくさまは少し考える素振りを見せる。

「そうだな〜じゃあ、山菜汁がいいな〜」

「分かりました。では、森で材料を採ってきます!」

大事な人のために夕餉を作れると思っただけで浮き足立ってしまう。

「ふふふっ。お願いね。」

はくたくさまは早めに朝食を切り上げ、支度をすると言って、台所を後にした。

それから程無くして、わたしも朝食を終え、食器を流しに運び、丁寧に洗う。

はくたくさまが出掛けるまで、部屋で薬の書を読むことした。










日が最も高くなった頃、軽い昼餉を終わらせて、はくたくさまを見送るために玄関に行く。

「じゃあ、行ってくるね。」

どこか急いでいる様子のはくたくさま。

仕事は分からないが、きっと重要なものなのだろう。

心なしか、彼の表情が硬い。

「はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ。」

「ありがとう、じゃあね。」

笑顔でそれだけ言うと、急ぎ足で出て行った。

「・・・」

頭、撫でて欲しかった・・・

ほんの数時間といえど、やはり寂しい。

忙しいのだから仕方ない。

「・・・お皿洗ったら森に行こう。」

誰に言うわけでもなく、ぽつりと呟いた。

台所に戻り、皿洗いと水回りの掃除を済ませ、森へ出掛ける支度をする。

巾着に必要なものを入れ、口を結ぶ。

この籠いっぱいに山菜を採って、食べきれないほどの山菜汁を作ろう。

台所から持って来た大きなかごを眺めて頬を綻ばせる。

出掛ける支度をしているうちに寂しさより、帰って来たはくたくさまを喜ばせてあげたい気持ちの方が大きくなっていった。

少し乱れていた髪を結い直し、戸締りをしっかりして外へ出る。

うさぎの墓に行ってきますをしてから、森へ向かって駆け出す。

途中、おやつ代わりに桃を採って食べたり、はくたくさまへのお土産に綺麗な花を摘みながら、山菜がよく採れる場所を目指した。

「ええと・・・確かこの辺・・・」

道を思い出しながら進んでいると、少し開けた所に出た。

「あ、ここだ。」

ぐるりと一面を見渡すと、様々な山菜が青々と茂っている。

ここは、家からそう遠くはないが、道が少し複雑でなかなか覚えられない。

「さーて」

着物の裾を捲り、籠を持って山菜取りを始めた。

きのこは勿論、ささげや蓬など、本当にたくさんの山菜が採れる。

籠は、あっという間に山盛りになった。

これだけあれば十分だろう。

日が傾く前に帰ろう。

そう思った時――――

「丁か?」

低い声が背後からした。
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