【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)
□丁の簪
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「魚がいっぱいですね!」
僕が持つ桶を見ながら嬉しそうに飛び跳ねる丁。
「そうだね、煮魚以外にも作れるね〜」
「はい!あ・・・」
丁が足を止める。
「ん・・・?」
「はくたくさま、あの店・・・少しだけ見ても良いですか?」
目の前には赤い暖簾が掛かった小さな店。
「もちろん、何の店なの?」
僕が聞くと、丁は少し恥ずかしそうに俯いた。
「あの・・・簪の店です。」
「簪・・・?」
「ええ、この髪紐は・・・もう何年も使っていて脆くなってしまいましたから、丈夫な簪に変えようと思いまして・・・」
簪は女性向けの装飾品だが、男が使っていても何ら可笑しくはない。
実際、僕も天帝の御前に上がる際は簪で髪を纏めている。
「そっか、じゃあ一緒に入ろうか。」
「はい!」
丁は僕の手を引いて、簪屋に足を進めた。
店の中は無数の簪で埋め尽くされていた。
「わあ・・・!」
丁は目を輝かせて並べられている簪を見て回っている。
僕も近くに立て掛けてあった簪に目を向けた。
簪とはこうも種類があったものなのか。
柄は木製のものから、銀や金の装飾が施された見事なものまで揃っている。
末端の装飾部は、硝子玉や天然石、値の張るものに至っては翡翠や水晶が使われていた。
丁はというと、ある簪の前で足を止めて、それに見入っていた。
「気に入ったのがあったかい?」
「はい・・・あれ・・・」
丁が指差す方を見ると、銀と赤瑪瑙で作られた簪があった。
柄の部分は複雑ながらも綺麗な曲線を描いており、末端の赤瑪瑙は美しく輝いている。
珊瑚や水晶の飾りも垂れ下がっていて、とても美しい。
「これ?」
その簪を棚から取ってやり、丁に渡す。
丁は嬉しそうに頷く。
「この石・・・はくたくさまの腕輪と同じものですよね・・・?」
簪の赤瑪瑙と僕の腕輪を交互に指差して言う。
「そうだよ。この石は赤瑪瑙っていって、家族愛や自然愛とか【愛情】の象徴と云われてるんだ。ふふふっ。丁にぴったりじゃないか。」
丁は簪を光に翳して見つめていた。
光の反射具合によって、赤瑪瑙がときどき橙がかって見える。
まるで、よく熟れた鬼灯のよう・・・
「はくたくさま、わたし・・・これに決めました!」
「うん、丁によく似合いそうだね。」
丁が店主の元に簪を持って行く。
「おじさん、これください!」
「はいよ、800元でいいよ。」
「少し待ってください・・・」
巾着から財布を出そうと手元が小刻みに動いている。
僕はその様子に笑みを溢して、支払場へ行った。
「店主、これで。」
800元丁度を店主に手渡す。
「丁度ですね。まいどあり。」
やっと巾着の中から財布を探り当てた丁は、僕の行動に目を見開いた。
「は、はくたくさま・・・?!」
「ん?」
「丁のお小遣いで買いますから・・・!」
今度は財布の中に手を突っ込む丁。
「いいから、いいから。帰ろう?」
簪を受け取って丁の巾着に入れ、唖然としている彼の手を引いて店を出た。