【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)
□過去のわたしはもう居ない。
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花が綺麗に咲いている広場に着いた。
背をぽんぽんと優しく叩いてくれる。
「丁・・・?何が怖かったの?」
優しいはくたくさまの声に少しずつ落ち着きを取り戻していく。
「殴られると思ったのです・・・頭に触られそうになったから・・・」
ぎゅう・・・っと、はくたくさまの肩にしがみ付く。
「丁は、殴られる様な悪いことしたの?殴られなきゃいけない理由があった?」
「・・・・・・・・・」
「お前はもう、昔のお前じゃない。」
「はくたくさま・・・」
「街の人間が怖いのだろう?」
はくたくさまの問いに頷く。
「お前はもう、みなしごじゃないだろう?僕が居るじゃないか。お前が蔑まれたり、乱暴されたりはしないよ。」
「・・・」
わたしを地面に下ろして、腰を屈めた。
「万が一、そんなことがあっても僕が守ってあげる・・・ね?」
真っ直ぐわたしを見る黒い瞳。
「すみません・・・わたしが出掛けたいと申し出たのに・・・こんな・・・」
出掛ける前、人に対する不安はあったが、それよりも街に対する好奇心が勝っていた。
しかし、いざ他人を前にしたあのとき、過去の記憶が蘇ってしまった。
「いいの・・・いいんだよ・・・お前には時間が必要だ。大丈夫・・・一緒に消していこう・・・過去の辛さも痛みも・・・」
はくたくさまが抱き締めてくれた。
よく知った香の甘い匂いに安心する。
「人と会うのも、少しずつ慣れていけばいい。また、こうして一緒に出掛けようね。」
「はくたくさま・・・ありがとうございます。」
優しい笑みを溢す神様にさらに強く抱きついた。
街はとても面白かった。
見たことのない玩具や綺麗な織物に目を奪われた。
また来たいと思った。
はくたくさまと一緒に。
今度は何があっても怖くない。
神様が一緒だから。
「ほらほら、折角綺麗な着物着てるんだから、笑って笑って!」
頬が軽く摘まれる。
「ねえ、あそこの甘味処でおやつにしない?」
少し先で甘味処の暖簾が揺れている。
「はい。少しお腹空きました・・・。」
「じゃあ、決まりだね。行こう。」
わたしの手を握って走り出すはくたくさま。
今日は色んなことがあった。
楽しかったけど、少しだけ怖かった。
でも、良い一日だった。
目の前を楽しそうに走る神様に自然と笑顔になる。
また、出掛けましょう。
一緒に・・・。
続