【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□過去のわたしはもう居ない。
1ページ/3ページ

今日も良い天気。

洗濯物もよく乾きそう。

庭の花に水をやりながら、傍らに干されている洗濯物に目を向ける。

心地良い風がぱたぱたと洗濯物を揺らす。

その風がわたしの白い襦袢の裾もはためかす。

甘い花の香りが風に乗って鼻先に届く。

今日はとても気分が良い。

なぜなら・・・

「丁〜水遣りありがとう。そろそろ着替えて出掛けようか。」

背後からはくたくさまの声。

そう、今日は待ちに待ったお出掛けの日。

先週、薬を一人で作ったご褒美ということで、はくたくさまに街へ連れて行ってもらうのだ。

「はい、今まいります!」

桶と柄杓の片づけをしてから、はくたくさまの元に走った。

「髪も結い直した方がいいね。」

「あ、そうですね。」

気付かないうちに付いていた葉や花びらを払ってくれた。

居間に着いてから早速、出掛ける支度をする。

鏡の前に座って、髪を結い直す。

その間に、はくたくさまは何やら箪笥を開けて何かを探していた。

頭を軽く振って髪紐が緩まないか確認する。

「丁、こっちにおいで。着付けてあげるよ。」

わたしを手招きするはくたくさま。

呼ばれるまま走り寄ると、綺麗な着物を見せてくれた。

薄い橙色の絹で織られており、所々に桃色の蓮の模様がある。

「これ・・・どうされたのですか?」

「丁の為に仕立てたんだ。どうかな?お前には橙が似合うと思ってね。」

「でも、そんな高価なものいただけません・・・」

絹なんて、はくたくさまの漢服に使われているものしか見たことが無い。

「何言ってるの、いつも頑張ってお手伝いしてくれてるじゃない。これもご褒美だよ。」

「そんな・・・あっ・・・」

くるん、と後ろを向かされ、着物の袖を通される。

「それに、お出掛けのときくらい着飾らなきゃ〜」

器用に着物を着つけていくはくたくさま。

「はい、こっち向いて〜帯、苦しくない?」

「あ、はい・・・大丈夫です。」

赤色の帯が締められていく。

帯にも金の刺繍が繊細に入っていて、とても美しい。

「できた。鏡見てごらん?」

鏡の前に立ち、自分の姿を見る。

「うんうん、やっぱり丁は橙と赤がよく似合うね。」

はくたくさまは満足したように微笑む。

今まで生きてきて、こんな上等な服を着たことが無かったので、何とも言えない気持ちだ。

でも、はくたくさまが似合うと褒めてくれたので、自然に頬が緩む。

「これで支度は完璧だね。さ、行こう。」

「はい」

差し出されたはくたくさまの手をとって家を出た。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ