【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□失敗と褒美
3ページ/5ページ

はくたくさまは大丈夫だろうか?

私との勉強以外にも何やら仕事をしているようだ。

いつもは、勉強の後は一緒に遊んでくれるのに、最近は部屋で書き物をしていることが多い気がする。

忙しいのだろうか・・・?

「はくたくさま・・・」

ふと、はくたくさまから貰った本を開く。

「えっと・・・あった、これ・・・」

真武湯・・・

最近覚えた薬だ。

体力が低下し、眩暈や吐き気があるときに使う。

「これなら作れるかもしれない・・・」

はくたくさまが薬を作っているのをもう何度も見ている。

「よし。」

本を持って台所に向かった。





勝手に台所を使って良いのか迷ったが、今は、はくたくさまの為に薬を作りたい。

「お借りします、はくたくさま。」

調理台の側に、踏み台代わりの椅子を持ってきて、それに乗る。

「鍋と、匙と、包丁と・・・」

いつもはくたくさまが薬を作るときに使っているものを思い出しながら、戸棚を漁って探す。

「次は・・・材料・・・」

今度は椅子を薬棚の方に持って行き、それぞれの引き出しを開けて、必要な生薬を一掴みずつ取っていく。

再び調理台に戻り、鍋に水を張って湯を沸かす。

その間に、持って来た材料を切っていく。

湯が湧いたら、切った材料を入れてしばらくかき混ぜる。

召使いとして働いていた頃、毎日炊事をしていたので、包丁や火の扱いには慣れている。

鍋の中身がぐらぐら煮立ってきたら火を弱めて蓋をする。

あ・・・

どのくらい煮ればいいのだろう?

あの本には作り方までは載っていない。

はくたくさまの動作を思い出しながら作業して今に至る。

そういえば、材料の割合は一掴みずつで良かったのだろうか?

はくたくさまは、いつもすべての生薬を一掴みしか取らないから、真似してみたのだが。

はくたくさまに聞いた方が良いのか・・・?

いや、それでは作る意味がない。

色々考えているうちに、鍋が噴きこぼれを起こしていた。

「あ・・・!」

慌てて火を止める。

蓋を取ると、湯気が勢いよく立ち上った。

「!!」

あっという間に煙が台所に充満する。

慌てて開け放していた台所と廊下を繋ぐ扉を閉める。

「・・・・・・。」

鍋の所に戻り、その中を覗き込む。

生薬が水を吸いすぎてしまって、水分がほとんど残っていない。

思い出してみれば、生薬を煮ているとき、はくたくさまは鍋から決して目を離していなかった。

「どうしよう・・・」

考え事をしていたから・・・。

取り敢えず、生薬を濾して湯呑に移してみたが、半分にも満たなかった。

「・・・。」

ものすごく遣る瀬無い気持ちが込み上げて来て、視界が潤んでいく。

「ぅ・・・」

はくたくさまの為に、一人で薬を作ってみたかった。

いつも、はくたくさまの横で見ていたから、出来ると思った。

でも、できなかった。

生薬を無駄にしただけ。

湯呑の中身が虚しく揺れる。

涙がどんどん溢れてくる。

「はくたくさま・・・ごめんなさい・・・」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ