【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□失敗と褒美
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夏の午後は一日の中で最も暑い。

少し外に出るだけで頭がぼーっとしてしまう。

えーっと、この後は丁と勉強して、夕飯の買い出しに行って、あぁ風呂の掃除もしなきゃな。

庭の花の手入れをしながら、一人でぶつぶつ呟く。

ふと丁を見やると、笑いながら庭中を走り回っていた。

虫を見つけては捕まえようと追いかけ回っているようだ。

この暑いのによくもまあ、あんなに走り回れるものだ。

さて、そろそろ・・・

「丁〜おいで。」

「はい!」

元気よく返事した丁が走り寄ってくる。

「今日は暑いから、水浴びして涼んでからお勉強しようか。」

丁の頭を撫でてやる。

その髪は汗でしっとりしていた。

嬉しそうに頷く丁の手を引いて風呂に向かった。





水浴びを終えて、部屋に戻るや否や、丁は本棚に駆け寄り、本を引っ張り出していた。

「はくたくさま!今日はこの本がいいです!」

丁が僕に差し出してきた本は、僕が最近よく読んでいるものだった。

『漢方・生薬辞典』

薬の効能・副作用、材料となる生薬についてなど、漢方薬の基本が詳細に書かれている本だ。

「いいよ、丁は薬に興味があるのかい?」

「はい!丁もはくたくさまみたいにお薬作りたいです。」

「ふふふっ。じゃあ、そのうち丁にも手伝ってもらおうかな。」

「本当ですか?」

飛び跳ねて喜ぶ丁。

「本当だよ。さあ、始めようか。」

丁を膝の上に座らせ、本を開く。

「じゃあ、今日は薬の材料になる植物の名前を覚えてみようか。」

生薬について載っている項を探す。

「あったあった。いいかい?ここに載っているものを組み合わせて薬を作っていくんだ。」

「これ、すべて生薬ですか?全部同じに見えます・・・。どのように見分けて覚えれば良いのですか?」

僕を振り返って不思議そうな顔をする丁。

「そうだね。この絵は干したり刻んだりした後のものだから分かりにくいね。本当は実物を見た方が分かりやすいんだけどね。今度、森に出掛けて採りに行こう。」

「はい!」

一つ楽しみが増えた、嬉しそうに笑う丁に笑みが零れる。

「じゃあ、丁にも分かりやすいものから見ていこうか。まずこれは、陳皮っていうんだ。」

「ちんぴ?」

「そう、みかんの皮だよ。乾燥させると立派な生薬になるんだよ。」

丁は陳皮の絵を食い入るように見ている。

「胃腸を元気にしたり、咳を止めたりする効果があるんだよ。」

「お腹と、咳ですね。」

「そうそう、次はこれ。大棗だよ。ナツメの実を乾燥させたものなんだ。」

陳皮の隣に描かれているナツメの絵を指差す。

「これがナツメですか?乾くとこんなに縮まるのですね。」

「うん。甘みがあって、このままでも食べられるんだよ。風邪の症状が出たときによく使うんだ。」

「風邪に効くのですね。分かりました。」

「じゃあ、次に行こうか。これは・・・」

こういった調子で四半時ほど、生薬の名前と効能の説明をしていった。

丁は非常に勉強熱心で、本当に感心する。

「丁、肩こりや腰痛に効く生薬は覚えているかい?」

「はい、当帰です。」

「そうそう、こんな短時間でよく覚えられたね。えらいえらい。」

丁の頭を撫でてやる。

「ありがとうございます。あの、明日も今日の続きやりたいです。」

「うん、いいよ。しばらくは薬の勉強をしようか。この本は丁が持ってていいよ。」

はい、とさっきまで使っていた辞典を丁に手渡す。

「本当ですか?」

「うん、好きな時に見るといいよ。」

「はい!」

辞典を受け取った丁は自分の勉強机の上にそれをどさりと置き、またすぐ戻ってきた。

「はくたくさま、ありがとうございます。」

丁寧に礼を言う丁。

「どういたしまして。さあ、そろそろ夕餉の支度をしよう。丁も手伝ってくれる?」

「もちろんです!」

そのまま、僕たちは台所に向かった。
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