【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□気持ちのいい朝
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「はくたくさま」

顔を洗い終えた丁は僕のもとに駆け寄ってきた。

「ん?何だい?」

腰を屈めて丁と視線を合わせる。

「今日は、卵屋さん遅いですね。」

「ああ、そう言えば、いつもより遅いね。」

丁は卵が好物らしい。

なので、丁の為に週に一回、卵の配達してもらうようにした。

いつもならこれくらいの時間に来るのだが、確かに今日は少し遅いようだ。

「じゃあ、卵屋さんが来るまで庭で遊ぼうか。」

丁は僕の言葉に跳ねて喜ぶ。

本当に、可愛らしい子だ。

「はくたくさま!しりとりしましょう?」

「うん、いいよ。」

草の上に胡坐をかいて座り、膝の上に丁を座らせてやる。

「じゃあ、丁からね。」

「はい!では・・・」





「お椀!!・・・あ。」

「はくたくさま、『ん』が付きました!丁の勝ちです!」

しまった〜

『ん』が付いてしまった。

うーん、日本語のしりとりは苦手だ。

膝の上の丁は鈴の音のような声で笑っている。

「ふふふっ、丁は強いな〜」

「しりとりは得意です!」

丁は、変わった。

出会って間もない頃は僕を、否、人を怖がっていたため、常に怯え、口数も少なかった。

そんな丁が、今では笑顔で走り寄って来て足にしがみ付いたり、可愛らしい声を上げて笑ったりするようになった。

「はくたくさま!」

膝の上の丁がぴょこぴょこと腰を揺すっている。

「ん?もう一回やるかい?」

「はい!」

丁としりとり二回戦目を始めようとしたとき・・・

がたん・・・がた・・・

遠くで、運び車の音が聞こえる。

「あ、はくたくさま!卵屋さん来ました!」

「本当だ、ちゃんと来てくれたね。行こうか。」

丁の手を引いて、運び車に近づく。

「おはようございます、卵屋さん!」

「おはよう、坊や。遅れてごめんね。はい、どうぞ。」

青年は丁に詫びると、卵の入った籠を丁に渡した。

籠を受け取った丁は中を覗き込んで満面の笑みを浮かべている。

「おはよう、いつもありがとうね。」

僕は青年にお代を渡す。

「白澤様、おはようございます。いえ、とんでもございません!遅れてしまい、申し訳ありませんでした。」

「気にしないでいいよ〜朝は忙しいもんね〜」

「ありがとうございます。では、また来週お伺いしますね。」

青年は丁寧に会釈し、元来た道を戻って行った。

手を振って彼を見送っていると、着物の袖をくい、と引っ張られる感覚に気付く。

下を見ると、丁が着物をきゅっと掴んでいた。

その愛らしい仕草にくすりと笑い、丁を抱き上げた。

「お腹空いたね、丁。朝餉は卵のお粥にしようか。」

「はい!わたしもお手伝いします!」

「ありがとう、丁は偉いね〜」

腕の中で張り切る丁に笑みが零れた。

丁、今日も楽しい一日になりそうだね。





「卵屋さん」を連呼する丁を書きたかっただけ。笑
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