【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)

□甘えを知らない子
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「あ・・・の?」

「丁・・・といったね?お前の言うとおりだ。戻ったら殺される・・・戻ってはいけない。」

僕は突然のことに呆然としている丁をこの腕から逃すまいとさらにきつく抱きしめた。

人間は愚かな生き物だ。

雨乞いなどしても雨は降らない。

ふと、遠くの方から声が聞こえてきた。

『見つかったか?』

『あの弱った体ではそう遠くへは行けまい』

『大事な生贄が・・・畜生!』

「あ・・・っ・・・!」

遠くの方で村人の声が聞こえる。

逃げ出してきた丁を追ってきたのだろう。

丁は僕の腕の中で震え、その小さな唇を震わせていた。

「あ、あの・・・わたし、もう行きます!」

彼は僕の腕から逃れようともがき出した。

「・・・」

「放してください!わたしと居るのを見られれば貴方だって・・・!」

腕の中の小さな子どもは躍起になって叫んだ。

しかも僕の心配までするときた。

全く・・・

「お願いです!放し・・・」

「黙りなさい!こんな体で・・・逃げ切れるわけがないだろう?!」

「ッ・・・!」

丁は体を竦ませて僕を見た。

その瞳にみるみる涙が堪っていく。

「ここに大人が居るんだから、頼りなさい」

今まで人に甘えたことなど、頼ったことなどなのだろう。

先ほどからのこの子の言動を見ていれば嫌でも分かる。

「・・・・・・」

丁は糸が切れたように泣き出し、僕の胸にしがみ付いた。

「ッ・・・!助けてくださ・・・っ・・・お願い・・・っ!」

「真乖・・・(いい子だ・・・)」

僕は目を細めると、立ち上がり丁をしっかりと抱いた。

「さあ、行こう・・・」

僕は空を見上げて大地を蹴り、高く飛び上がった。
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