【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)
□おまえは賢い子だね
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しばらく歩いて、家からそう遠くない森へやってきた。
「わあ!」
丁は目を輝かせて走って行った。
あの子はこういった場所へはあまり来たことがないらしく、僕が色々なところへ連れて行く度に非常に新鮮で楽しそうな表情を見せてくれる。
それもそうか。
この子は僕に出会う前までは召使いとして一日中家に閉じ込められ働いていたのだ。
外で遊ぶ時間など与えられていなかっただろう。
なんてかわいそうな子だ・・・。
「おいで、丁。」
「はい!」
僕は笑顔で走り寄ってきた丁を抱き上げて森の中へ入っていった。
「丁、これがナツメっていう木の実だよ。」
ぼくはナツメを一つ採って丁に渡した。
「このまま食べるのですか?」
「このままでも食べられるけど、干したり煮たりした方がおいしいんだよ」
丁は初めて見るナツメをまじまじと見つめている。
「じゃあ、たくさん採って甘露煮にして明日のおやつにしようか」
「甘露煮好きです・・・」
丁は甘いものが好きらしく、甘露煮と聞いて嬉しそうに笑った。
「ふふふ・・・あ、あそこにたくさん生ってるから両手いぱいに採ってくれる?」
僕は丁を高く抱き上げて、実がたくさん生っている所へ近づけた。
「はい・・・あの、重くないですか?」
丁は心配そうに僕を振り返って声を掛けた。
「全然平気だよ。さあ、いっぱい採りな」
僕にそう言われ、丁は小さな手でナツメをどんどん採っていった。
「・・・・・・・?」
左腕に違和感を感じ、よく見たら切り傷があり、血が滲んでいた。
いつの間に・・・?
木が尖っている箇所で掠ったのかな?
痛みは全くない、気付かないくらいだからね。
でも、血が着物に付きそう・・・
ちゃちゃっと治しちゃうかな〜
「丁、一度下ろすよ〜」
僕は丁をそっと下ろした。
「はくたくさま!こんなに採れました!」
「たくさん採れたね〜いくつある?」
「待ってください、数えますね!」
丁は両手に抱えていたナツメを籠に入れて、数を数えはじめた。
僕は丁がナツメに夢中になっている隙を見て、神気をほんの少し指先に溜めた。
よし・・・
着物の袖を捲って傷を露わにした。
うわ、結構深いな…
「はくたくさま!全部で・・・!」
丁が勢いよく顔を上げ僕を、いや、傷を見た。
しまった・・・
「はくたくさま!!どうされたんですか?!」
丁はナツメが入った籠をひっくり返して僕に駆け寄ってきた。
丁には血を見せまいと思っていたが、無理だった。
あの子は血相を変えて僕の傷を見た。
「こんなの平気だよ。」
「いけません!はやく薬を塗らないと・・・!」
丁は弾かれたように立ち上がり、さっき僕らが来た道を走って行った。
「丁!何処へ行くの?戻っておいで!!」