キリ番リクエスト作品

□ネコ娘さまへ♪
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・・・。

・・・・・・。

・・・わたしは、一体・・・

身体が怠くて動かない。

腹の上に大きな岩が載っているようだ。

どうして、こんなことになっているのだ。

今日あった出来事を思い起こしてみる。

午前中はいつも通りに業務をこなして・・・

昼休みの前に私への来客があって・・・

来客・・・・・・?

そうだ、天界からの遣いが訪ねて来たのだった。

それから・・・それから・・・・・・?

・・・!

そうだ、思い出した・・・

彼ら・・・否、奴らは天界からの遣いなどではなかった・・・

天に身を置く者に変わりはなかったが・・・

あぁ、次々に蘇ってくる記憶。

それで、私は奴らに・・・・・・

一瞬でも信じて部屋に入れたのが間違いだった。

己の血で染まった真っ赤な手が見えたのを最後に記憶が途切れた。

何も無い真っ暗な空間。

私は消滅したのだろうか・・・?

あの時、確かにこの身体から鬼火が抜け出していくのを感じた。

・・・・・・。

となれば、もうあの人には会えないのか・・・

重い瞼の裏に浮かんだのは、私が慕ってやまない人の姿。

最後に会って、抱き締めたのはいつだっただろうか。

泣き虫なあの人のことだ。

きっと今頃、子どものように泣いているのだろう。

すみません・・・白澤さん。

『・・・き・・・』

・・・・・・?

私の耳が微かな声を捉えた。

『ほ・・・ずき・・・!・・・・て・・・』

反響してよく聞こえないが、名前を呼ばれているようだった。

この聞き覚えのある声は・・・もしかして・・・

『ほおずき・・・、おきて・・・』

そうだ、間違いない・・・!

白澤さん・・・・・・!

脳に直接届く声。

今度ははっきり聞こえた。

何処・・・何処に居るのです・・・?

「ほおずき・・・ほおずき・・・!」

私を呼ぶ愛おしい声に応えたいのに、身体が言うことを聞かない。

・・・畜生・・・ッ!

消える前に、貴方に会いたい。

貴方の姿を、この目に映したい。

そう願っては固く閉ざした瞼を震わせる。

そして・・・・・・、








「・・・・・・。」

急に黒一色だった視界が明るくなった。

瞼が軽くなった気がしたので、恐る恐る目を開けてみる。

映ったのはよく知った場所の天井。

部屋には消毒液と漢方薬の香りが立ち込めている。

「・・・・・・。」

ここは、桃源郷・・・?

・・・白澤の部屋だ。

どうして、私がここに・・・?

状況を理解出来なくて、あらゆる疑問が脳内を駆け巡っていたが、それらは一瞬で打ち消された。

「・・・っく・・・」

「・・・!!」

あの闇の中で聞いたのと同じ声・・・

重怠い頭を動かして横を見た。

「ぁ・・・」

そこには、寝台に突っ伏して啜り泣いている白澤が居た。

私が目覚めたことに気付いていないのだろう、しきりに「起きて」と肩を震わせながら譫言のように呟いている。

会いたくて堪らなかった人が、目の前に居る。

腕が痺れているのも構わず、目一杯彼に向かって手を伸ばす。

「はくたくさん・・・、」

やっとの思いで手を重ねることが出来た。

「・・・鬼灯!目が覚めたんだね!」

手の感触に気付いた白澤は弾かれたように起き上がった。

そして、すぐさま握り返された手。

まだ少し痛むのを堪えて寝台から身を起こした。

「起き上がって大丈夫?」

「ええ、平気です。」

改めて、白澤の顔をよく見る。

いつも白くて艶やかな肌はすっかりやつれてしまっていた。

目の下にはくっきりと隈が出ていて、碌に寝ていなかったことが伺える。

「よかった・・・本当に、よかった・・・っ・・・」

「白澤さん・・・」

「身体はどう・・・?まだ痛いなら痛み止めあげようか?」

「白澤さん・・・・・・」

「熱はもう無いみたいだね。本当によかっ・・・っ?!」

額に当てられた細い手首を掴んで、そのまま自分の胸に引き寄せる。

「ほ、鬼灯!傷が開いちゃ・・・」

「ずっと寝ずに側に居てくれたのですか・・・?」

離れようとする白澤の腰に両腕を回し、しっかり抱き締める。

傷が少し痛むが、そんなこと構わない。

「当たり前だろ・・・」

離れることを諦めたのか、肩に手を回してくれた。

「感謝します。・・・あの時、貴方が見つけてくれていなかったら今頃・・・」

恐ろしい言葉を口にしようとした鬼灯の唇に指を押し当てて制止する。

「ッやめて・・・もう思い出したくない・・・あんなの・・・もう・・・」

黒い瞳から大粒の涙が溢れ出す。

次々と頬を伝う涙を指で掬ってやる。

「ほら・・・もう泣くのはお止めなさい・・・私はここに居るでしょう?」

「っ・・・く・・・ほおずき、ほおずき・・・」

幼子のように肩口に齧り付いて泣きじゃくっている。

そんな白澤を安心させるように背中をさすってやる。

「私はもう大丈夫です。貴方が治してくれたではありませんか。」

「ひっ・・・ぅ・・・く・・・」

なかなか泣き止まない白澤に小さく肩を竦める。

「白澤さん・・・」

天の頂に君臨する一神が、私のような一介の鬼に心を乱して泣くとは。

これだから手放せない。

頬に手を添えて、その顔を上向かせる。

涙で潤みきった瞳に私が映る。

「ほ・・・ずき・・・」

私の名を紡ぐ少しかさついた唇に己の唇を重ねる。

冷たい唇を啄み、少しずつ口付けを深めていく。

自分の体温を分からせるように。

怖い思いをさせたことを詫びるように・・・

「ふふっ・・・元気になったみたいだね。」

「さっきからそう申しているでしょう?」

やっと笑った神様に安堵した。

「ねえ、分からないことがたくさんあるんだ。・・・どうして・・・」

「白澤さん、後でお話しますから・・・今は・・・」

明日の朝にでも今回のことの真相をちゃんと話さなければ。

だけど、今は何もかも忘れてこの人と一緒に居たい。

たくさん抱き締めて安心させてあげたい。

「このままでいさせて下さい・・・」

そう呟いて慈しむように髪を撫で、抱き締めた。






翌朝、白澤に肩を借りながら裁判の間に居る大王の元へ向かう。

私を見つけた大王は慌てた様子で走り寄って来た。

「ほ、鬼灯君・・・!気が付いたんだね!もう起きてて平気なの?」

「ええ、大丈夫です。ご心配をお掛けしました。」

「とんでもないよ。無事に目が覚めて本当に良かった・・・」

心から安堵した表情を浮かべた大王。

昨夜、白澤からは丸一日間を覚まさなかったと聞いていた。

「大王、ありがとうございます。・・・それで、今回の件ですが・・・実は私自らが招いたことなのです。」

一息置いてから、事の真相を話そうと口を開いた。

「・・・え?」

「どういうこと?これは、鬼灯君が原因ってこと?!」

二人は思った通りの反応を示した。

それもそうだろう。

表面だけを見れば、今回のことは大王か彼の側近である私を狙った刺客の仕業だと誰もが思うだろう。

だが、それは違う。

「ええ、そうです。あの日、私の部屋を訪ねて来たのは天界の使者を騙った者だったのです。」

「そんな・・・・・・」

そもそも政に関係の無い者は閻魔殿に入ることは許されていない。

だから、巧妙に偽造した宮殿の手形と天帝の緊急を要する勅命が書かれた書状を携え、この閻魔殿を訪れたのだろう。

天界からの、ましてやに天帝からの命が地獄に届くことはごく稀なこと。

「そもそも、天界から命が下ったなら、遣いよりも先に文による伝達が届くはず。何の連絡も受けていなかった門番も気付くことが出来なかった。」

私の言葉に思い当たる節があったのか、白澤が口を開いた。

「・・・あの日、門番の様子がおかしかったんだ。・・・天帝が直々に送った使者が来てるから、閻魔殿には誰も通せないって・・・そればかり。」

「・・・そうですか。きっと、口外しないように命じられていたのでしょう。・・・ですが、門番や他の官吏たちに罪はありません。そもそもの原因を作ったのは私ですから。」

「鬼灯君、一体どういうことなの?君があんな目に遭わなきゃいけない理由なんて無いでしょ?」

今までの話を聞いて信じられないという表情を浮かべる大王。

「・・・私が、白澤さんに手を出したからです。」

「・・・?!」

「鬼灯君・・・、それは・・・」

「本来、神とは万物を等しく愛でることを業とする存在。そんな尊い神に己の情をぶつけるなど、あってはならない。」

私の言葉に、子どものように頭を振る白澤。

「そんなの・・・関係ないだろ・・・お前と一緒になったのは、僕の意志で・・・僕が自分で決めたんだ!誰が何と言おうと・・・」

「例えそうであっても、他人から見れば・・・私は神を囲い込んだ大罪人です。だから・・・いつかこのようなことも起こると、予想していました。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・。」

重苦しい雰囲気が漂う中、閻魔大王が口を開いた。

「鬼灯君、白澤君・・・ワシは席を外すから、君たちが納得するまで話し合いなさい。
・・・辿り着いた答えに、助けが必要なら遠慮せずに言いなさい。」

私たちの中を知る数少ない人の一人である彼は、そう言い残して裁判の間を後にした。

「・・・どうして、」

「これは・・・神である貴方を愛した代償です。」

「そんなの、おかしいよ・・・。」

「いいえ。他でもない神に近付くことは、罪です。それを押し切って貴方を手に入れた。」

「・・・・・・。」

「この身がどんな危険に晒されようが構いません。貴方を側に置けるなら、こんな傷の一つや二つ・・・何ともありません。貴方でなければ・・・こんな風に思ったりしません。」

「・・・・・・馬鹿だよ、お前。」

ぽつりと呟く白澤が愛おしくて、そっと抱き締める。

「その馬鹿の想いを受け入れたのは、どこの誰です?」

「・・・もうあんなのは御免だって言ってるだろ?」

「おや?貴方が治してくれるのではないのですか?」

「な・・・」

呆れた表情を見せた白澤だったが、すぐにその瞳が細められた。

「僕、随分頼りにされてるんだね。」

「ええ、頼りにしてますよ。まあ、同じ手は食らいませんが。」

「・・・うん、」

ふいに、私の腹を白澤が着物の上から撫でる。

「本当に・・・あんなお前はもう、見たくない。いくら覚悟の上でも・・・、お前も僕も辛いだろ・・・」

「白澤さん・・・怖い思いをさせましたね。・・・すみません。」

「・・・ねえ、大王に断って・・・今夜うちに来てよ。まだ、怖くて一人じゃ寝れないんだ。」

まだ血色が戻らない青白い手で、着物の袖を力無く握っている。

「貴方が安心して眠れるまで側に居て差し上げます。・・・ですから、もうそんな顔しないで。」

また泣いてしまいそうな白澤の顔を上げさせ、その額に口付る。

ええ・・・これで、いいのです。

これが・・・私が抱く血の香りを纏った恋なのだ。


















ネコ娘様!お待たせいたしました!!
看病ネタ・・・というより、ほぼ応急処置(笑)
看病感が微塵も感じられない駄作で良ければ、お受け取りください!←
想像以上に長くなってしまい、ダラダラとすみませんでした(+o+)
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