【短編】現代(鬼灯×白澤)

□いにしえのまほう
1ページ/2ページ

「白澤様、ちょっと教えて欲しいことがあるんですが・・・」

本を手にした桃タロー君が僕に声を掛けてきた。

「ん、どうしたの?」

「この薬なんですが、火から下ろすタイミングが分からなくて・・・」

「あぁ、これは沸騰し始める寸前に下ろすんだ。少しでもタイミングがずれると生薬がダメになっちゃうからね。」

調合手順の隅の方に先に行ったことを書き込んでやる。

「はい、これでいいかな?」

「ありがとうございます!やっぱ白澤様はすごいですね〜何でも知ってるなんて、流石知識の神様です!」

嬉しそうに言う桃タロー君だが、僕の心境は複雑だ。

僕にも知らないことくらいある。

知りたくて止まないものだってある。


























飽きる程長く存在していれば、嫌でもありとあらゆる知識が身に付いていく。

呪いもその一つ。

創る呪い、癒す呪い、与える呪い。

壊す呪い、傷つける呪い、奪う呪い。

数え出したら限が無い。

その数多の呪いを駆使し、今まで神としての業を成してきた。

でも、そんな僕にも未だに扱えないものが一つだけある。

それは、死した者にひとたび命を吹き込み、呼び戻せるという。

古くから西洋に存在しているが、使える者はほんの僅かに限られる

僕にとってはまさに魔法″だ。

そもそも、魔法は遥か西の土地で生まれ、東に殆ど伝えられることなくその力を増してきた。

魔法を意のままに出来るものは、己の心の何処かに悪が潜んでいると言い伝えられている。

僕はその魔法たちを手に入れる術を知らない、否、手に入れられないのだ。

それは何故か、

理由は明白だ。

この身の内に魔"を宿していないから。

生まれ落ちたその瞬間から、この身には吉兆が宿っている。

僕の身体に負の象徴である魔"が入り込む隙間など無いのだ。

欲して止まないのに、決して叶うことは無い。

何て皮肉なのだろう。

僕がこんなにその魔法を求める理由。

それは、

愛しい愛しいあの子・・・鬼灯の為。

あれは、もう何千年も前のことだ。

僕が日本を訪れて、初めて鬼灯もとい丁に出会った。

でも、その出会いは悲しいほど儚いものだった。

出会ったその明くる日に、丁は死んだ。

雨乞いの生贄として祀られ、酷い衰弱故の痛ましい死だった。

この腕の中で丁の身体が確実に冷たくなっていく感覚は今でも覚えている。

『せめて、お名前を・・・もう、目があまり見えなくなってきました・・・いずれ、耳も・・・』

『僕は、白澤。中国の神だよ・・・ごめんね、嘘吐いて・・・』

『はくたく、さま・・・』

『丁、聞いて・・・この苦しみを乗り越えたら、お前は楽になれる・・・もう、苦しまなくていいんだよ。』

『・・・・・・』

『はく、たくさま・・・あめ・・・ふらせて、くださ・・・ね・・・』

『うん・・・っ・・・うん、きっと・・・』

『よく頑張ったね・・・ゆっくりお眠り。』

僕はあの日のことを一日たりとも忘れたことは無い。

あの弱々しい声と表情。

きっと、あの子は世界中の誰よりも無念な死を迎えた筈だ。

力を振り絞って笑みを浮かべていたけど、それはそれは儚くて見ていられなかった。

人間としての生を謳歌することが叶わなかった丁。

そんな丁は天帝と鬼火の力により、鬼へと転生した。

それが鬼灯だ。

運命とか、そんなのじゃないけど、鬼灯と出会ったことは偶然じゃないと思うんだ。

特別な何かがあると信じてる。

そんな鬼灯は生前の記憶が残っており、今も尚人間への恨みを抱き続けている。

鬼としての生を受けた彼は瞬く間に成長し、地獄の補佐官へと上り詰めた。

そんな鬼灯の成長をずっと側で見てきたわけだが、僕の心は複雑だった。

もし、もう一度人としての生を手に出来たら・・・

お前は心から笑うことが出来るのだろうか・・・?

僕の知ってるお前の笑みは、どこか悲しげで儚いものばかり。

闇の中に迷い込んで、出口を探し続けているように見えてならないのだ。

だから、あの日この手で蘇らせてあげたかった。

でも、僕にそれを成す力は無い。

どんなに願っても叶わないことだと分かっているから余計に辛いのだ。

今からでもいい。

僕に魔法を操る力を頂戴。

闇をも砕く強い力が欲しい。

あの子を助けたい。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ