【短編】現代(白澤×鬼灯)

□光と闇
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「不備は無さそうですね。お疲れ様です、上がっていただいて結構ですよ。」

月締め書類の提出に来た獄卒にそう告げる。

「ありがとうございます。では、お先に失礼致します。」

獄卒は丁寧にも会釈をして執務室を後にした。

「・・・はぁ。」

机を埋め尽くす書類に思わずため息が出る。

月末とはどうしてこうも忙しいのか。

新卒獄卒の研修日程の最終確認や先程提出された山の様な月締め書類・・・

挙げ出したら限が無い。

あぁ、そうそう・・・来月頼む薬の発注書も作らなければ・・・

薬・・・か。

彼は、白澤さんは元気にしているだろうか。

もう何週間も彼と会えていない。

今日だって天帝からの呼び出しで、天界にある宮殿に赴いている。

電話越しでならしょっちゅう話はしているが・・・

天帝からの頼みごとも抱えているようで、配達や往診にくるのも桃太郎さんだ。

どれもこれも業務的な話ばかり。

恋人らしい話などこれっぽっちも無い。

少しだけ寂しい気もする。

って・・・何てことを考えているのだ、私は。

邪な感情を振り払おうと、頭を振る。

しかし、一度湧いた彼への想いはそう簡単には消えてくれない。

あの人が好きで好きで堪らない。

彼の声や手の温かさが恋しい。

あの、優しい声が聞きたい。

あの、暖かい手で触れて欲しい。

会いたい、

光の様に明るい神様に。

「ぁ・・・・・・」

そうだ、彼は・・・白澤さんは、神様なんだ。

全てのものを愛でる吉兆の神。

いわば、光そのものだ。

「・・・・・・」

では、私は・・・?

恐怖が渦巻く地獄で血に塗れながら金棒を振るう鬼。

地獄に棲む者からですら、常闇の鬼神と畏れられる。

こんな闇に支配されている鬼などが、皆から敬われる神の側に居て良いものなのか?

今までこんなこと考えたことなど無かった。

あの人は優しいから私の全てを受け容れてくれている。

でもそれは、神の品格を欠落させている行為なのかもしれない。

私は、あの人の優しさに甘えて今まで・・・

何だかとんでもないことに気付いてしまったような気がした。

もし、あの人が、私の横に立つことを苦に思っていたら・・・?

もし、あの人にとって私の『好き』という気持ちが迷惑なものだったら・・・?

もし・・・・・・

負の感情が脳内を満たしていく。

私は、あの神様の隣に居てはいけない、

そんな気がしてならない・・・・・・

それが真実である証拠など、何処にも無いのに・・・

まさに、私たちは光と闇の関係だった。

「・・・私が隣に居ては、居心地悪いですよね・・・」

唇から勝手に言葉が零れ落ちて行く。

それは、先まで抱いていた神への愛の言葉ではなく、己を蔑み彼を憐れむそれだった。

「光を纏う貴方と、闇に堕ちた私は・・・相容れないのかもしれませんね・・・っ」

気付いた時には涙が頬を濡らしていた。

悲しくて仕方が無い。

彼の優しさに甘えていた自分も

女々しく涙を流す自分も

みんなみんな嫌。

「ごめ・・・なさ・・・っ」

袖で涙を拭っても、後から後から流れてくる。

「私は・・・貴方には、相応しくない・・・っ」

書類に皺が寄るのも構わず、机に突っ伏す。

ただただ、嗚咽を漏らしながら泣く。

「お許しくださ・・・っ・・・・白澤さ・・・」

誰も聞いていないのをいいことに、みっともなく声を上げる。

「鬼灯、それ本気で言ってるなら・・・怒るよ?」

「!」

頭上から降ってきた声。

それは、愛しくてたまらないあの人のもの。

聞き違える筈が無い。

弾かれた様に顔を上げると、そこには悲痛な表情を浮かべる白澤さんが居た。

「ど、して・・・」

貴方は朝から宮殿に行っていた筈・・・

帰りは3日後と聞いていた。

「急いで案件を片付けて来たんだよ。」

私の頬に綺麗な指が伸びる。

「・・・・・・」

「ここ何週間も会えなかったからね・・・寂しい思いさせてると思って来たんだ。」

指先が流れ続ける涙を掬い取っていく。

頬を滑る指先がこそばゆい。

「ねぇ、何が不安なの?何が恐いの?」

「・・・・・・」

「教えて?鬼灯・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

俯いたまま唇を噛む。

「心配しなくていいよ。お前が恐れている事なんて絶対に起こらないから。」

髪を優しく梳かれる。

「僕とお前の立場が違いすぎるのが恐いんだろ?」

無言で頷く。

「馬鹿な子だ・・・そんなこと気にしてたら愛し合うなんて無理だよ。僕はお前が地獄の鬼だからだとか、血で汚れてるだとか・・・
そんな風に考えたことは一度も無い。お前の全部が好きなんだ。・・・鬼灯は違うの?」

少しだけ切なさを滲ませる声音。

「いいえ・・・!私だって・・・・!!」

顔を上げると綺麗な瞳と視線が絡まる。

「私だって、貴方の全てが・・・好きです。」

この美しくも気高い神様が、

存在する全てのものに愛を与えるこの人が大好きだ。

「うん、分かってるよ。・・・ねぇ・・・お願いだから、相応しくないだなんてもう言わないで・・・」

「ごめんなさい・・・私、どうかしていました。」

「良いんだよ。僕にはお前しかいない・・・それだけは忘れないで。」

涙の痕が残る頬に慈しむようなキスが落とされた。

あぁ、そんなことを言われたら・・・

光と闇だとか、神と鬼だとか・・・もうそんなことはいい。

この人は、私という存在が好きだと言ってくれた。

閊えていたものが融けて無くなっていく。

「白澤さん、貴方をお慕いしています・・・ずっと、ずっと・・・」

零れ落ちた心からの告白。

嘘偽りの無い、私の気持ち。

「僕も、愛してるよ。」

神は優しい笑みを湛えながら、再び口付けを落とす。

鬼である印の角に。














予想以上に糖分たっぷりな話になってしまった。
我が家の鬼灯様は女々しいな・・・笑。

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