【短編】現代(白澤×鬼灯)

□豚に貯金は出来るのか
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はあ、今日も大王の所為で残業だ。

いつになったらしっかり働いてくれるのやら。

仕事を終わらせて、部屋へ戻る支度をしている所にシロさんがやって来た。

「あ!鬼灯様〜!」

「おや、シロさん。どうしましたか?」

屈んで白くてふわふわな頭を撫でる。

「あのね、桃太郎から伝言だよ!久し振りに衆合地獄で一緒に呑まないか、だって!」

「そうですか、ありがとうございます。明日は休みですし、行きますか。」

「うん、桃太郎喜ぶよ!じゃあ、いってらっしゃい!」

手の代わりに尻尾をぶんぶんと振り回すシロさん。

「おや、貴方は行かないのですか?」

「俺はこのあと先輩と飲むんだ〜」

「そうでしたか、お気をつけて。」

「うん!じゃあね〜!!」

小さな足で駆けていくシロさんを見送る。

桃太郎さんと飲むのも随分久し振りな気がする。

翌日は休みだと思うと気が楽だ。

久し振りに飲み明かそう。

そんなことを考えながら衆合地獄にある行きつけの飲み屋を目指して閻魔殿を出た。










「お誘いありがとうございます。」

「とんでもない!仕事が忙しいのに付き合ってもらってすみません。あ、隣どうぞ。」

相変わらず人の良い笑顔で席を進めてくれる。

「ええ、失礼します。・・・・・・で、」

草履を脱ぎながら、さっきから視界の端に映っている白衣を着た豚を見やる。

「何故、奴がここに?明日が納期の薬は出来ているのでしょうかね?」

「あー・・・あの、それはーー・・・」

桃太郎さんの顔が心なしか青い。

これは出来ていないと見た。

「俺は止めたんですけどね〜聞く耳持たないんすよ。」

がっくりと肩を落として出来損ないの上司を見る。

「桃タローくーん、今何時・・・げ。」

こちらを見た白澤さんと目が合った。

私を見た途端、醜い顔を更に歪める。

どうしよう、もの凄く殴りたい。

殴ろう、うん、そうしよう。

「ちょっ・・・何でお前が居るの??!!!計算外なんだけど!!」

「俺としては、あんたが付いてきたことが計算外ですよ。」

「え?!桃タロー君が呼んだの??!こんな常闇鬼神・・・・いってえええぇぇぇえええ!!!」

グラスを持ったままふらふらと近づいてきた奴の頬を思いっきりはたく。

ぐしゃっという音と共に顔面から畳に落ちる。

「それはこちらの台詞です。私の視界に入らないでいただけます?」

「理不尽すぎだろお前!」

鼻血を出しながらのろのろと起き上がる豚。

「白澤様、公共の場なんで静かにしてください。」

「桃タロー君まで酷い!!」

畳に両手をついて、業とらしく項垂れている。

気持ち悪い。

豚ミンチにしてやろうか。

「白澤さん、貴方がここに居るということは、明日私が朝一で薬を取に行っても問題ない、ということですよね?」

私の言葉に、白澤さんの肩が僅かに揺れた。

「え?えーーと、それはちょっと問題あり・・・かな?」

「ほーぉ、何故です?5秒待ってやるから答えろ。」

「・・・・・・。」

冷や汗をだらだら流す豚を見下ろし、5秒数える。

「・・・時間切れ。」

「ぎゃああああああぁぁ!!!!」

側にあった一升瓶で奴の頭を殴る。

血を噴きだしながら畳の上をのた打ち回る。

お前の血で店が汚れるだろうが。

暴れる豚を土間に蹴落とす。

「白澤様〜店に戻って薬作ったらどうです?あんたにしか作れないんでしょ?」

「こいつ、手間のかかる薬ばっかり注文しやがるんだもん!いくら僕でも無理!」

へっと開き直る始末。

ああ、金棒持って来れば良かった。

「納期が1か月もあったのに、いつまで経っても手を付けないあんたが悪い。」

「じゃあさ、帰るから桃タロー君払っといて〜」

「はあ?!またですか??!」

桃太郎さんの頬が引きつっている。

「弟子にまで借金してるなんて、どうしようもありませんね。」

救いようのない豚にため息が零れる。

「じゃあ、せめて酒代くらいは出してください。それくらいはあるでしょう?」

桃太郎さんは自分の財布を取り出して、中身を確認する。

「ちょっと待って〜」

白衣やズボンのポケットに手を突っ込んで財布を探す白澤さん。

「あったあった〜」

はい、と言って出てきたのは50元硬貨1枚。

小さな音を立てて畳に落ちる50元。

静かに白澤さんに歩み寄る桃太郎さん。

「何考えとるんじゃ、この爺!!持ち金これだけか?!ああ??!!!」

遂に桃太郎さんが白豚に掴みかかった。

いいぞ、もっとやれ。

「ちょ、桃、タロー君・・・いたたたた!」

がくがくと揺さぶられる白澤さん。

「おい!店の売り上げはどうしたんだよ?!」

「前にも言ったでしょ?7割は交際費に・・・ふげっ!!」

桃太郎さんの拳が奴の頬にめり込む。

「こんんんのバカ上司!!お前本当は貧乏神じゃねぇのか??!!!」

ここまでキレる桃太郎さんは珍しい。

流石の豚もヤバいと思ったらしい。

「待って、待って!ごめん、僕が悪かったよ!来月には必ず返すから!ね?」

「・・・ちょっと通帳見せてください。」

「え?」

「早く見せろ。」

「・・・はい。」

素直に通帳を桃太郎さんに渡す。

「・・・。」

「・・・・・・。」

暫しの沈黙。

この先の展開は目に見えていた。

「何で収入があった翌日の残金が1ケタなんだよおおおおお!!!!」

桃太郎さんの手にある奴の通帳を覗き見る。

確かに収入があった次の日の残金が「6」になっていた。

「桃太郎さん、よくこんな駄獣の下で働いてますね。」

「ええ、自分でも驚きです。そろそろ潮時ですかね・・・」

二人でボロ雑巾みたいになった白澤さんを見下す。

「じゃ、じゃあさ!競争しようよ!」

「ああ?」

「お前を何発殴れるかをですか?」

往生際の悪い豚を壁際に追い詰める。

「ちょっ・・・話くらい聞けよ!今日から一か月間、今の残金からどれだけ増やせるか3人で競争しようよ!」

「何故、私まで・・・」

ふざけた提案に深くため息を吐く。

「そしたらさっ、桃タロー君への借金も1回で返せるし!ね?ね?」

豚の必死さに笑える。

「はあ・・・まぁ良いですよ。それであんたが耳を揃えて返してくれるなら。」

桃太郎さんは苦い顔をしつつも了承した。
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