【短編】現代(白澤×鬼灯)
□禁忌術
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今日は珍しく定時で上がれたので、部屋で書を読んだり、金魚草の研究をしたりして、趣味に時間を費やし、早めに床に就いた。
明日は早朝から会議があるから、早く休むに越したことはない。
そう思って、目を閉じた。
しかし、
真夜中、異常な寒気で目が覚める。
「・・・?」
身体を起こした途端、激しい眩暈に襲われる。
視界が揺れ動き、咄嗟に目を閉じる。
「ッ・・・!」
何だ、これは・・・
眩暈が治まりかけた頃、恐る恐る目を開ける。
「・・・寒い・・・」
全身に悪寒が走る。
過労・・・だろうか?
思い返せば、一昨日まで3徹だった。
その疲れが出てきているのだろう。
1人でそう解釈し、再び布団に潜り込む。
「・・・・・・・・」
でも、
身体の中で熱い何かが暴れている気がする。
胸の辺りだけが熱い。
一晩眠れば良くなるだろうか?
あれこれ考えるのは止めにして、悪寒に耐えつつ眠りに就こうと目を閉じた。
朝、起床時間に目覚ましが鳴る。
それを止めて身を起こす。
眩暈は無くなっていたが、悪寒はまだ若干する・・・。
胸の熱さも、今は落ち着いているが、どこか燻っている感覚がある。
とにかく、支度をしなければ・・・
黒の着物を羽織りながら洗面台に向かった。
いつも通り、顔を洗って歯を磨く。
ふと、鏡を見ると驚いた。
瞳の色が変わっている。
闇のような漆黒の瞳が、今はくすんだ灰色に変色している。
痛みは特にないのだが、非常に気味が悪い。
昨日の眩暈といい、悪寒といい、只事ではないことは確かだ。
「・・・」
会議場に行く前に大王の所へ寄ろう。
自分の瞳の変化に焦りつつ、足早に閻魔大王の元へ向かった。
「大王、おはようございます。」
裁判台で書類に目を通している大王を見つけると、挨拶をする。
「!!」
私を一目見た大王は血相を変えて、こちらへ走ってきた。
「鬼灯君・・・君・・・・・・」
大王の目が驚きと焦燥に見開かれている。
「・・・?」
大王の焦り様に首を傾げる。
「君の鬼火が、身体から滲み出てるよ・・・見えない・・・?それに、その目・・・」
「え・・・?」
鬼火が、身体の外に・・・・?
唖然としている私の目の前に大王の手が伸びる。
「ちょっと触るよ・・・痛みは?」
「・・・いえ、特にはありません」
「そう・・・・・・」
「大王・・・私の鬼火が、何ですって・・・?」
思わず聞き返してしまう。
「君の鬼火が身体の中で揺れてるんだ・・・。揺れては弾けて、その飛沫が身体から抜け出している・・・。
その目も、君の中の鬼火が弱まっている証拠だよ。」
「・・・・・・」
私は、人間として死に、鬼火によって再び鬼として存在している。
要は鬼火によって私は生かされている。
その鬼火が身体から出て行って弱まりつつある。
それが示す意味とは・・・
昨晩、胸が熱かったのは鬼火が揺れていたからというのか・・・?
「病、ですか・・・?」
私の言葉に大王は考え込む。
「君は生まれつきの鬼じゃないから、生粋の鬼よりは鬼火が不安定なんだ。人間から鬼になったのは君だけだから、前例がない。
ワシじゃ病かどうかの判別は付けられないから、白澤君に来てもらおう。」
白澤、という名に少しだけ安心する。
あ・・・
また眩暈が・・・
「待ってて、今連絡を・・・」
ぐらぐらする・・・頭が、痛い・・・
胸の奥が熱い・・・痛い・・・
もう、だめだ・・・
足が縺れ、床に倒れる。
「鬼灯君?!・・・白澤君!急いで来て!鬼灯君が!!」
大王の悲痛な声が遠くで聞こえる。
白澤さん、来てくれるのですね・・・
そこで意識が途絶えた。