【短編】神代・黄泉(白×丁・白×子鬼灯)
□丁の簪
1ページ/3ページ
僕と街に出掛けてから一か月。
丁を外の世界に慣れさせるため、近くの村への買い出しに連れ出している。
もちろん、怖がらせないよう細心の注意を払い、終始手を繋いでいる。
最初こそ、戸惑っていたが、最近では嫌がるどころか、自分から店主に話し掛けたり、お代を払ったりしている。
その甲斐あってか、徐々にだが、人間に対する恐怖が無くなってきている。
ついさっきも・・・
「はくたくさま!今日は魚をいただきに行きましょう?」
丁が僕の着物の裾を軽く引っ張って言う。
「ん?ああ、そうだね。今日の夕餉は煮魚の約束だったね。」
村に出掛ける支度をするために腰を上げる。
「今日は東の村に行きたいです。」
「どうしてだい?」
「前から気になっている店があるのです。」
髪を結い直しながら鏡越しに僕を見る。
「いいよ、それじゃあ今日は東の街に行こうか。」
「はい!着物を着替えてきますので、少しお待ちください。」
ぱたぱたと足音を立てて、隣の部屋へ走って行った。
と・・・まあ、こんな調子だ。
丁も外に出ることが楽しい事だと思い始めているし、嬉しいことだ。
このまま、外で遊ぶことも出来るようになれば、もっと丁を自由にしてやれるのだが・・・
流石にそれはまだ不安だ。
少しずつ時間を掛けて慣れさせてやればいい。
「ん・・・?」
足音が近づいてくる。
「はくたくさま!お待たせしました!」
一か月前に丁に贈った橙色の着物を着ていた。
「上手に着られたね、それじゃあ行こうか。」
「はい!」
元気よく返事をする丁の手を繋いで家を出た。
「おばさん!魚を2匹下さい!」
家から持って来た桶を店主に差し出す。
「おや、坊や。いつもありがとうね。」
桶を受け取った店主は素早く魚を捕まえて、水と共に桶に入れた。
「お代はこれで足りるかな?」
懐から小判を数枚取り出し、店主に渡す。
「白澤様・・・!こんなに、いけませんよ!」
小判の枚数に驚いた店主は焦って何枚か返そうとしていた。
「いいんだ。この店の魚はいつ買っても美味しいからね。遠慮せずにとっておいてよ。」
丁が不思議そうな顔でこちらを見ている。
そんな丁の頭を撫でてやる。
「こんなにご贔屓にしていただいているだけでも十分ですのに・・・」
店主は僕に深々と頭を下げた。
そのまま、彼女は丁を見て微笑むと、丁が持っている桶の中に魚をもう2匹入れた。
「坊や、今日はたくさんおまけしてあげるね。」
「ありがとうございます、おばさん!」
桶の中でいつもよりたくさんの魚が泳ぐのを見て満面の笑みで礼を言う丁。
「ありがとう。じゃあ、また来るね。」
「はい、いつでもお待ちしておりますよ。」
店主と挨拶を交わして店を出た。