キリ番リクエスト作品

□ネコ娘さまへ♪
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「・・・・・・、」

「・・・さま、」

「・・・・・・・・・」

「白澤様!」

「っえ?!・・・あぁ、桃タローくんか。驚いたなぁ〜」

弟子に呼ばれ、自分が薬匙を片手に上の空だったことに気付く。

「さっきからどうしたんです?それ、明日鬼灯さんに渡す薬ですよね?」

「そうだよ。」

「ちゃんと明日までに完成させないと、また怒られますよ。」

「大丈夫大丈夫、もう少ししたら出来るから。」

そしてまた、鍋の中身を見つめる。

最後に、あいつがここに来たのはいつだったか・・・

風邪が流行り出した頃だから、もう三ヶ月は経つだろう。

「・・・・・・」

桃タロー君がここで働き始めてからは、地獄への配達は彼に任せているので、僕が地獄へ赴くことはあまりなくなった。

僕の仕事と言えば、一日中ここで薬を作るか、街へ往診に行くかだ。

ちなみに、閻魔庁に納める薬とは別に、個人の持病に使う薬を求めて来る者も居る。

特にあいつ、鬼灯は常備薬を買いにたまにだが、ここへ来る。

それが、明日だ。

何か月ぶりかの逢瀬。

「・・・やっとかよ。」

僕らは少し前に恋仲になった。

想いを通わせたとは言え、毎日会えるわけではない。

会いたくて堪らないのに、お互い仕事に阻まれる毎日が続いている。

かと言って、僕が公の用が無いのに頻繁に閻魔庁に出入りするのもどうかと思う。

鬼灯からは、混乱を招きたくないからと僕らの仲は秘密にするように言われている。

だから、余計に行動には気を付けなきゃいけない。

明日には会えるのだから、もう少し我慢すればいいこと。

そう自分に言い聞かせながら、薬が完成したことを確認して火を止め、薬匙を放った。

「お疲れ様です。そう言えば、白澤様はもうご存知ですか?」

「何のこと?」

「俺も配達に行ったときにシロ達から聞いたんですけど・・・」

「地獄で何かあったの?」

また、亡者の脱走とか官吏の汚職とか、そんな所だろう。

「事情はよく分からないのですが、鬼灯さんに直接の用があるみたいで、天界の使者様たちが地獄に来ているそうで・・・」

「鬼灯に?」

「ええ。使者様たちのお相手で鬼灯さんも今は裁判どころじゃないみたいですよ。白澤様でしたらご存知かと思ったんですが・・・。」

「いや、全然知らなかったよ。」

天界からということは、天帝の命が下ってのことだろう。

一体、鬼灯に何の用があるのだろうか。

皆目、検討が付かずもやもやした気持ちだけが残った。

「桃タロー君、僕ちょっと様子見て来るよ。店番頼んでいい?」

「ええ、分かりました。」

快諾してくれた弟子に礼を言い、急いで出掛ける支度を始めた。

支度もそこそこに庭へ飛び出し、獣の姿に戻る。

そのまま地を蹴って空へ上がる。

逸る気持ちを抑えながら地獄へ向かった。

よくよく考えてみると、可笑しな点がいくつかある。

天界と地獄には直接的な取引は何も持っていない。

ましてや、鬼灯と天帝の接点など無いのに。

仮に緊急であったとしても、天に棲む神々へ伝達があるはずだ。

だが、それが無かった。

麒麟や鳳凰はこのことを知っているのだろうか。

考えても考えても分からない。

とにかく、地獄に急ごう。



















「は、白澤さま・・・いかがされましたか?」

「天帝の命でここに遣いが来ていると聞いたんだ。何かあったの?」

地獄に降り立って早々、門番に詰め寄る。

「・・・申し訳ありません。う、上から極秘だから・・・誰にも口外するな、と言われていまして・・・」

「・・・・・・。」

しどろもどろになって言葉を紡ぐ門番に違和感を覚えた。

在ろうことか、こちらを見ようともしない。

・・・やっぱり、おかしい。

「・・・口外するな?僕がどこの誰か分かって言ってるの?」

「例外は無いとのことで・・・」

「・・・もういい、退け。」

「で、ですが・・・」

「二度も言わせるな、退け!!」

門番を押し退けて、大きく聳え立つ門をくぐった。

「白澤様!お待ちを!!」

後ろから引き止める声が聞こえたが、そんなものに構ってはいられなかった。

あの門番の態度は普通じゃなかった。

この先で、とても恐ろしいことが起こっている気がしてならない。

急げ、もっと早く!

頭の中で鳴り響く警鐘に突き動かされるように、閻魔殿へ向かった。

閻魔庁の前を警護していた衛兵の制止を振り切り、一目散に裁判の間へ向かった。

大きな扉を開け放ち、部屋の中を見渡す。

「大王!!」

目的の人物を見つけ、走り寄る。

「白澤君・・・」

「大王、これはどういうことです!?天の遣いが何故鬼灯に?」

こちらを見た閻魔大王は憔悴しきっており、それは痛々しいものだった。

「・・・ワシにもさっぱりじゃ。天帝からの勅令だと、そればかりで詳しく教えてくれなくて。」

「本当に・・・本当に天界からの遣いだったのですか?」

「うん、宮殿の手形を持っていたから間違いないと思うけど・・・」

「・・・おかしいんです。」

「何がおかしいの?」

「天界が動くときは、天地の神に伝達が来る筈なんです。・・・今回はそれが無かった。ましてや天帝の勅令が僕らの耳に入らない筈無い・・・」

「じゃあ・・・・・・、」

僕の話で、大王も不信感を持ったようだ。

「ええ、そうです・・・」

「は、白澤君!様子を見てきてくれるかい?」

大王は鬼灯が居るであろう奥の部屋に視線を遣りながら焦りの表情を浮かべている。

「分かりました・・・ッ?!」

不意に鼻を突いた鉄の匂い。

大王との話で今まで気付かなかった。

この部屋に微かに漂う血の匂いを、獣特有の嗅覚が確かに捉えた。

「・・・!鬼灯!!」

居ても立ってもいられなくなり、その場から走り出した。

鬼灯が危ない・・・

鬼灯が・・・・・・!

長い廊下の突き当たりにある鬼灯の自室が見えてきた。

部屋が近づくにつれ、微かだった血の匂いが確かなものになる。

「・・・ッくしょう!!」

見慣れた鬼灯が描かれた扉を目の前にする。

そして、躊躇うことなくその扉を蹴破る。

扉が開け放たれたことで、真っ暗だった室内が薄い明るさを帯びた。

部屋の中を見て、喉が上ずったのが分かった。

白い壁に飛び散った大量の赤い飛沫。

噎せ返る程の濃い鉄の匂い。

そして、寝台に寄り掛かるように蹲っている黒い影。

「ぅ・・・」

「ほ、ずき・・・?」

その黒い影こそ、探し求めていた鬼灯だった。

ここからでは表情は分からないが、苦しそうな呻き声が聞こえる。

慌てて駆け寄ろうとするが、目の前に広がる余りに悲愴な光景に足が縺れて思うように走れない。

それでも何とか鬼灯の側まで辿り着き、改めてその姿を瞳に映す。

「ほおずき・・・鬼灯!!」

「・・・ッ」

ぐったりと寝台にしな垂れかかる身体をそっと揺り動かしてみる。

彼の肩に手を掛けたとき、生温かくて滑ったものが触れた。

「ぁ・・・」

肩口から腹までに刻まれた傷。

その傷口から今も血が溢れ出している。

「鬼灯!鬼灯!!」

こちらの呼び掛けには一切応じず、拳を握りしめて呻きを上げるだけ。

その口端からも大量の血液が滴り落ちている。

傷が内臓まで達している証拠だ。

よほど痛みが酷いのか、身体は硬直し、額には大粒の汗が浮かんでいる。

「どうして・・・誰がこんなこと・・・」

とにかく、傷を塞いで血を止めないと・・・

震える手で懐から札と筆を出す。

「・・・ッ」

・・・だめだ、心が落ち着かないせいで筆に神力が宿ってくれない。

「頼む・・・頼むよ・・・ッ!」

何度念じても、神力を感じることが出来ない。

「何で・・・?!どうしてだよ・・・ッ!!」

浅い呼吸を繰り返す鬼灯の周りを何かが飛んでいる。

「・・・!」

鬼灯に宿っている筈の鬼火だ。

「・・・まさか・・・!」

少しずつではあるが、確実に鬼灯の身体から離れていっている。

鬼火は宿主の消滅を悟ると、その身体から抜け出してしまう。

このままじゃ、鬼灯が消えてしまう。

どうしよう・・・どうしよう・・・

「どうすればいいんだよ・・・!」

心を落ち着けて札に術を書けば良いのに、それが出来ない。

否、出来る訳ない。

最愛の人が今にも消えてしまいそうなのに。

頭の中が真っ白で何も考えられない。

「鬼灯・・・鬼灯・・・どうしよう・・・」

血の匂いが染みついた着物に縋り付くことしか出来ない。

「白澤君!!」

「!!」

背後からの大声に我に返る。

振り返った先には驚愕の表情を浮かべた閻魔大王が立ち尽くしていた。

「大王・・・どうしよう・・・鬼灯が・・・」

涙で視界が歪んでしまう。

唇が震えて上手く言葉が紡げない。

「白澤君・・・」

「ねえ、教えてよ・・・どうすればいいの?!このままじゃ・・・!」

どんどん冷えていく鬼灯の身体。

そんな彼の身体を掻き抱いて身を震わせる。

思考が混乱して何も出来ない。

治癒の力に長けている筈なのに。

それが、僕に与えられた力なのに。

今や神の威厳など何処にも無い。

ただただ、彼を失ってしまうかもしれない恐怖に駆られるだけだ。

「鬼灯・・・ほおずき・・・ッ?!」

鬼灯の首に腕に必死に縋り付いていた手を、強い力が引き剥がした。

「しっかりしなさい!!鬼灯君を助けられるのは君しか居ないんだ!」

珍しく怒声を上げる大王。

それは僕の目を覚まさせるものだと直ぐに気付いた。

「・・・ぁ。」

「・・・さあ、心を鎮めてもう一度筆を執ってごらん。」

大王に促されるまま、血に染まった手で傍らに落ちた札と筆を持つ。

そうだ、僕が取り乱してどうする。

「・・・ほおずき、もう少しの我慢だからね・・・。」

目を閉じて、ひたすら念じる。

この子は僕が助けなきゃ。

痛みと苦しみから解放してあげなきゃ・・・

僕が・・・

身体の底から神気が込み上げてくるのを感じながら、一心不乱に筆を走らせる。

術が宿った札を血が噴き出す傷口へ貼る。

札は血に溶け、直ぐに効果を示し出した。

みるみる血が止まり、傷が塞がっていく。

だが、これだけの大きな傷は札一枚ではとても賄えない。

そう考え、新しい札へと手を伸ばす。

「一体誰が・・・ッこんな・・・」

今日が終われば、鬼灯と久し振りにゆっくり過ごせると思っていたのに。

血色を失くしてしまった頬に手を添える。

何だか、とても冷たく感じる。

「白澤くん、経緯はワシが辿ってみるから今は鬼灯君を・・・」

「・・・ええ、分かってます・・・

念じたままに新たな術が札に刻まれていくのを見つめる。

大王の言う通り、今は鬼灯の回復が最優先だ。

「大丈夫、全部治してあげるから・・・」

こうして、ほぼ一日かけて鬼灯の治療にあたった。
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