桜咲く頃月照らす
□記憶無き記憶
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ピヨッ…
ピー…
黄「…っん、…ん…」
可愛らしい鳥の鳴き声が聞こえた。
眩しい日差しの朝、俺は目を開いた。
黄「…っ、ここは…」
立ち上がろうとすると頭がフラフラして立つことを諦めた。
首元に何か巻かれていると思い、触ると包帯が首に巻かれていた。
首だけでもなく、頭にも何か巻かれていた。それも包帯。
黄「…あれ、俺は…なんで…」
必死に昨日起きたことを思い出していた。頭が痛いためかなかなか上手く認識できない。…しかしようやく思い出した。
黄「…そうだ、千鶴、山南さん…っ!!」
昨日のことを思い出した俺は千鶴と山南さんの安否が分からず、立ち上がった。
…しかし、頭に走る激痛のため、その行動はまたしも遮られた。
黄「…っ!痛ってぇ…」
?「昨日、頭を打ったんだよ。大人しく寝ていた方がいいよ」
頭を抑えていると障子が開いた。そこにいたのは…
黄「…総司?」
沖「おはよう、目が覚めて良かった」
いつもと変わらない笑顔の総司が立っていた。手にはお盆があり、そこに朝餉が乗っていた。
黄「…総司、千鶴は?山南さんは無事?」
沖「…それが…」
黄「…え?」
突然深刻そうな顔をする総司。…まさか、
黄「まさか…何かあって……っ!?苦っが!!!」
口に何か入った。…その瞬間にもの凄い不味さと苦さが広がる。
…この味は…
沖「石田散薬だよ。はい、お水」
土方さんの実家で作っていると言うあの石田散薬だった。総司は大嫌いな苦味と不味さで口を抑えている俺に水を差し出す。急いで俺はそれを受け取り、水を飲んだ。
沖「心配しなくても2人とも無事だよ」
黄「…そうか。…良かった…」
沖「首の包帯だけど、それ外さないでね。首が締められた跡も残ってるから。…見られるわけにもいかないしね」
黄「…」
…そうだ、昨日。
山南さんが言っていた幕命のことだ。…あの薬は…
すると総司はスッと立ち上がって、障子を開ける。
沖「…朝餉食べ終わったら、土方さんが話あるって。食べ終わったら幹部の誰かを呼んでね。土方さんを呼んでここに来るみたいだよ」
黄「…逃げないから、1人で…」
沖「頭を打ってるんだし、さっきっから君、立とうとする度フラフラしてたでしょ?」
黄「…!」
沖「…けが人なんだから、そこにいて。…呼んでくるから」
そう言って総司は部屋から出て行った。
…隣に置かれた朝餉を見た。…手を伸ばして箸を取った。
そして1口…
黄「…しょっぱい…」
誰だよこれ作ったの…。
と、思いながらも俺は食べ続けた。
…俺、どうなるんだろう?