桜咲く頃月照らす
□向かうのは
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「━━━げて…今すぐに…」
「━━たは…ここ……ない」
「━━━どこ……くへ……」
…誰?
あなたは誰なの?
…知らない人…のはずなのに
…どこか、懐かしい温もりが…
−−−−−−−−−−
黄「…っ…」
暗くなった夜
月の光が部屋に差し込み、微かなその光は影をはっきりさせる。
黄「…はぁ…はぁ………夢?」
不気味な夢だ。
知らない人が俺に何かを問いかけるようで。
汗ばんだ身体は風が吹く中、冷えていく。
…もう、あいつらは行っちまったんだ。
千鶴も、あいつらとともに。
黄「…俺が、もっと強ければ…」
こんな目にあわずに済んだのに。
…くそ
黄「…こうなれば、何が何でも…行ってやる」
俺は立ち上がり、部屋を後にした。
新選組が総出陣したため、屯所はものすごく静かで。
案外バレにくいものだった。
障子の前を通り、隠れながら。
角を曲がろうとした時だった。
黄「…っ!」
?「しーっ、静かに。山南さんに怒られちゃうよ?」
後ろから口を塞がれた。俺の耳元でそう呟き、その手は離さないまま、障子を開けてそこに入った。
パシャン、と閉められるとようやく俺は解放された。
?「まさかまた脱走しようとしたわけ?君、諦め悪いね」
黄「…どういうつもりだ、総司。邪魔をするな」
沖「土方さんに言われてたでしょ?君はここで療養を取るようにって。そんなんで外に行かせるわけにはいかないからね」
黄「俺の身体だ。どうなろうが構わない。…千鶴を守って死ぬのなら本望さ」
沖「そんなに死に急がなくていいじゃない。…そんなに死にたいのなら、斬ってあげるけど?」
黄「…なんでだよ」
…どうして、
黄「どうして俺の邪魔をするんだよっ」
沖「…」
黄「俺の役目は千鶴を守ることだ。守られたら意味がないんだっ…」
沖「…ねぇ、逆に聞くけど。…なんで僕が無茶する君を止めるのかまだ分からない?」
黄「…え?」
沖「本当のわからず屋はどっちなのかな。…本当、君ってば…目が離せない」
ギュッ…
気づけば俺は総司の腕の中にいた。