桜咲く頃月照らす
□後日
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池田屋事件からしばらくのこと。
事件は収まり、少しはのんびりしてられる時間があった。
千鶴は幹部達の集まる広間に茶を持ってきた。
黄「…何、この薬」
山「おや、私も飲むんですか?左腕の傷はもう塞がってますよ」
雪「でも、土方さんが山南さんにもって…」
黄「…なぁ、俺も要らねぇんだけど。別にどっか怪我してるわけじゃねぇし」
じっと睨みつける土方さんが怖い。
その横で
沖「山南さん、悠里君。諦めましょ」
沖田は薬を飲んだ。そして俺を見てニコニコしてる。
山「副長命令とあれば…」
雪「このお薬って特別な諸法をしたものなんですか?」
医者の娘である千鶴は確かに興味は持つのかもしれない。
原「石田散薬か?……ま、特別っちゃ、特別だな」
雪「石田…散薬?」
黄「なぁ、土方さんがめっちゃ睨んでるんだけど。ねぇなんで?すっげぇ怖えんだけど」
なかなか薬を飲まない俺を土方さんはじーっと見ている。これは飲むまで睨み続けるだろうな。
…いや、俺…苦いのは…
沖「土方さんの実家で作ってるんだよ」
あぁ、それでか。それで俺を睨んでるわけね。
藤「そうそう!切り傷打ち身どんな痛みにも飲めば治るわ石田散薬!早々飲んで御覧じろってね!ほんとなんだかどうだか…ぐわっ!…まず」
そして土方さんは拳を握りしめ、鬼の副長が出る。
土「……試してみるか」
藤「ひぃっ!!勘弁してよー!これ以上傷が増えちゃ洒落になんないよ」
そしてそんな2人のやり取りに笑う幹部達。
土「…黄桜、どこへ行く」
黄「……あー、ちょっと水を取りに」
土「水ならここにあるじゃねぇか」
黄「ぬ、ぬるくなったかなぁーって思って。新しい水を…」
土「薬は飲む時冷たすぎも良くねぇ。これが丁度いいだろう。飲め」
黄「あ、あと俺自分の薬とか持ってるし?その散薬は他の隊士に飲ませれば…」
土「俺の実家の薬が飲めねぇってのか」
黄「い、いや。…そういうわけでは…」
土「なら飲め」
黄「…えーっと…」
沖「まぁまぁ。まずは悠里君、水を飲みなよ。粉薬だから口に残ったらいけないし」
…たまにはいい事を言うじゃねぇか、沖田。
俺は沖田から渡された水を取り、念の為匂いを確認。…変な匂いはないので、俺は飲むことにした。
黄「……………苦っげぇ!!!しかもまずっ!!!」
ただ水を飲んだだけなのにっ!なんだこの苦味と不味さは!
俺は甘党なんだよ!!苦いのなんて好ましくねぇ!!
土「…不味い、だと?」
黄「…な、なんで水がこんなに…?ま、まさか…沖田…」
俺は俺の分の薬が置いてあるはずのお膳を見た。…ない、薬がない。
沖「なかなか飲みそうにないから、僕が水に入れてあげたんだよ。あれ?もしかして気付かなかった?」
黄「ふ、ふざけんな!!俺は甘党なんだよ!!」
土「夫婦漫才をここでやるな!!」
黄&沖「「夫婦じゃねぇ!!/じゃないですよ」」
そしてまた笑う幹部たち。
井「それにしても、沖田君や藤堂君に怪我をさせる程の奴がいたとはね」
その瞬間、沖田の目は真剣味を帯びていた。
沖「…次に会ったら、勝つのは僕ですから。…邪魔はしないでよね、悠里君」
黄「……あぁ」
斎「そいつらは長州の者ではないと言ったそうだな」
藤「あぁ」
斎「だが、あの日は池田屋も人払いはしていたはずだ」
永「…って、ことは…」
斎「何らかの目的で潜入していた他藩の密偵かもしれない」
原「なんだよ、その目的って…」
斎藤は首を横に振り、沈黙が走る。
…そして、その沈黙を破った者がいた。
雪「あ、そうだ!悠里さん!」
…言うまでもなく、千鶴だった。
千鶴は袴に手を入れて首から紐のような物を取り出す。
黄「…これ…」
雪「山崎さんから預かった物です。悠里さんのなんですよね?ありがとうございました。それと、池田屋で吹いた時も来ていただいて…」
斎「池田屋で吹いた?」
沖「…あぁ、あの時ね」
永「俺は池田屋でずっと戦ってたがよ、笛の音なんて聞こえなかったぜ?増してや、騒音ばっかで話し声聞こえてやっとだったしな」
斎「…俺もだ」
…え?
みんな、聞こえなかったのか?
俺には、はっきりと聞こえてたのに。
黄「…お前ら、耳悪そうだもんな」
永「なんだとー!?」
そう言うと永倉さんは俺の頭をゴリゴリと拳で擦る。
藤「ちょっと新八っつぁん、悠里が痛がってるから」
この場はなんとか凌げたが、俺には疑問が残るだけだった。
…この笛は、大切な物だって。
……あれ?
俺、何か…
大事なことを忘れてる気がする。
…気のせいかな。