パラレル
□憂いの日は簪(かんざし)に
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繁華街の中でも、色町に抜けるその一角、そこには昔から流れる川があった。何でも花魁橋、という名のその川は、いつも男の犠牲となった花魁達が身投げした川だという。そこを通らないと花街には抜けられない、というのだから、この橋を作った人物も相当に罪深い。いつも女が全ての業を受け止める。そう、この真選組副長、坂田銀時の抱える闇さえも、であった。
橋の上には黒髪の女が川をじっと見ている。
それを通りがかるなり、坂田は声を掛けた。
「おねーさん、何してんの」
女はすかさず坂田の方に振り向き、睨み付けた。その険のある瞳、真っ黒に光る髪の毛。
坂田は思わず、息を呑んだ。
「・・・貴方には関係ありません。放っておいて」
「いーや。止めるつもりもねェけどよ。でも、まァ死ぬんならさァ」
クイ、と細い顎を掴んで坂田は言う。
「俺と一発、いい夢見てからでもいいんじゃない?」
女は驚いたように坂田を眺めていたが、すぐにハハ、と笑い出した。
「アンタ・・・面白い人・・・そんなこと言ってきたのはアンタが初めて」
でしょう?と坂田はニヤニヤしながら言う。
「じゃあ、決まりだな。今日はあんたが相方だ」
「・・・何処へでも」
女は、セイ、と名乗った。へえ、いい名前じゃん、と坂田は興味がなさそうに言う。それがまた、セイには面白かったようで、けらけらと笑った。酔っているのか、何なのかは分からない。それでも、坂田はこの女一人の命が一日でも延び、自分がいい思いをするならいい、と思っていた。人の命なんて自分がどうこう出来るものでも無い。更に言えば、この男は自分が斬れば目の前にいる人間は必ず死ぬ、それは自分も同じ、と思っている。
刹那的に生きてきた人間特有の考えかもしれない。そして、ざわざわと心がざわつく時は、女を抱くのが一番薬になる、ということも。
全ての汚れを注ぎ込む、そんな行為は色事と殺し合いだけだと坂田は思っていた。
全く、人殺しに明け暮れる殺人集団の副長というと、まるで救い様の無い人間であることは確かだった。
ぼんやりと女との情事を想像しながら、坂田は寂れたホテルを選ぶ。そこに入って、鍵を受け取ると二人はエレベーターで三階まで上がっていった。
何もしゃべらず、二人は無言でホテルの部屋に入る。
すると、坂田は言った。
「おねーさん、死ぬつもり無かったでしょ」
それを聞くとセイは、はっとした顔で坂田を見つめた。
「・・・やっぱりね。しかし、あんたどっかで見た顔・・・」
頬に伸びるその掌を、セイは思いっきり噛みついて坂田の懐の財布を取り出し、ドアを開け出て行く。
「え・・・?ちょ、ちょっと・・・」