パラレル
□憂いの日は簪(かんざし)に
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「表出ろ、上等じゃねェか・・・」
万事屋、というかぶき町でも有名なその看板が、ガタンと音を立てて揺れる。
若い男の怒号と、空を斬る音。
それに慌てて店から飛び出てくる銀髪の男は、真撰組副長、坂田銀時であった。
「あはっ、そんなに怒らないでよ・・・本当のことだろ、万事屋トシちゃん」
「・・・これ以上話すことはねェ。とっとと失せろ」
完全に瞳孔が開いたままのその黒髪の男を見つめながら、坂田ははあ、と溜息を吐く。それから、隊服のボトムを掌でパンパン、と叩いた。
「黙ってりゃあ美人さんなのにな。・・・惜しいなあ・・・」
「ああん?なんか言ったかテメー」
「トシもうやめるアル。いい加減ウチのルール分かって貰えばヨロシ」
凄む万事屋のチャイナ服の少女。その姿を見て、外で待っていた二番隊隊長の志村新八は声を上げた。
「銀さん・・・だから言ったのに・・・もう、帰りますよ」
へえへえ、と言いながら坂田は階段を降りる。カンカン、と乾いた音が周囲に響いた。
「もう二度と来るんじゃ無いネ。おいメガネ、よく言っておくアル」
志村はメガネをくい、と持ち上げながら、考えておきます、とだけ呟いた。
静寂が訪れた万事屋に、ぽつんと低く、トシは呟く。
「神楽、塩撒いとけ」
はーい、と可愛く返事した神楽という少女は、なんとなく寂しそうなトシの後ろ姿をぼんやりと見つめていた。
「銀さん 、銀さんってば」
後ろから駆け寄る新八を無視して、坂田は歩き続ける。
「・・・なんだよオメーは。うっせえなあ・・・かーちゃんかよ」
志村は坂田の腕を引っ張りながら、万事屋に戻ろう、と言いだした。
「正気かよ、新八」
「正気も正気ですよ。大体、トシちゃんってあの人・・・元々」
「・・・みたいだけど、な」
「なら尚更」
「いや、もう少し・・・、もう少し泳がせてみようぜ」
そう言いながら坂田はチュッパチャップスの上紙を取り外し、口に放り込んだ。
「あ〜っ、また甘いもんを・・・医者に止められてるでしょうがっ!!!」
「るせーなピーチクパーチクよう、働けば文句ねェだろうが」
全く、と言いながらも新八はちゃんとおつとめして下さいよ、と諫めるだけだった。
「・・・へいへい・・・」
そう言いながら、坂田は繁華街に消えていく。それを銀さん?と呼びながら、新八はついて行かない。いつものことだ。いつも、この人は万事屋に事情聴取に言ったあと、女を買いに行く。
それがほぼ決まり事のようになっていた。
輝き始めた夜の町、かぶき町。
その中に、あまりにもお似合いなのは、銀髪であったのだ。