銀土(原作設定)

□銀色エレジー
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ああ、この感触、この匂い。
懐かしくて眩暈がする。
俺たちは何度、重ね合ったのだろう。

今までの思い出が突然甦ってきて、土方は思い出の中に陶酔する。その、銀色の嵐に巻き込まれて自分は今まで、何度も果ててきたはずだ。もう此奴には会えないかもしれないと何度いい聞かせてもまだ、それでも会いたいという自分の気持ちに蓋をして今までやってきた。でもそれも、もう駄目だ。
絡み合う舌と、重なる指先。銀時の指が自分の髪の毛を絡めとるのを、土方はゾクゾクしながら噛みしめる。
「ああー、夢、みてェ…」
銀時はそう呟いて、また土方に口づける。余りにも甘く、切ない口づけに土方は辛くなって、逃げようとする。でもそれも、全て銀色に奪われてしまう。
会いたかった、でもそれを言えずに、土方は銀色の舌を夢中で貪る。銀時はその土方の行動に満足する。
もしかして、自分だけがこんなにも相手を求めているのではないかと不安になっていた。
もしかして、俺だけが、と。
でもそれでも今この場所に一緒にいること、それだけが二人の真実だった。
「はっ…がっつくな、この腐れ天パが」
土方は自分を棚に上げて言う。それを、クスクスと笑いながら銀時がいなした。
「そんなこと言ってさ、土方君のここ、もーヤバいんじゃない?」
決定的な証拠を差し示されても、それでも土方は知らねえ、と嘘を吐いて銀時に噛みつくように口づけた。
「俺も相当溜まってるんだけど。土方君も、かなァ」
苦痛の表情と、快感に咽ぶ表情はとても似ている、と銀時は思う。土方のそれは、まさにその通りだった。
悔しくも反応している自分を、なだめるように土方は言った。
「そんなことより、お前、かぶき町の復興のめどは立ってんのかよ」
今確実に快感の表情が見えたのに、この男は隠すのがうまい。途端に翻る身体に、銀時は宙に浮いた掌を持て余していた。
「ちぇっ、何だよ。つれねーの」
唇に残る余韻が、愛しさを増していくのを土方は無視した。
「…かぶき町は、まだ生きてるよ。こういう時は女が強ェわ。俺達男よりさァ。全く敵わねェな」
銀時の周りにいる女たちは確かに強かだ。取り巻きを思い出して土方は笑った。
「そうだな…同感だ」
遠くに見える明かりが、徐々に増えていく。夕方の明かりから、夜の深みの藍色に変わっていくのを土方はぼんやりと見つめていた。
「そっちは?」
銀時が訊くと、土方はそうだな、とポツリ言う。
「天人の海賊の残党狩り、それで今は手一杯だ」
戦争は終結したものの、やはりまだ残党は多い。壊滅した江戸に変わる政権が発足するまで、まだ時間がかかるだろう。
「姫様は?警護してんの」
「それァ総悟に任してる。お前のとこのチャイナもちらほら顔出してるぜ」
江戸の人間にとっては、そよ姫が生きていることは救いだろう。あの笑顔を見るだけでも人々の心は安らぐ。
「そーか。お互いやってることァ変わんねー、ってことか」
「そうだな」
銀時と少し距離を置いた土方を、銀時は歯痒く思う。今口づけたのに、もう自分の腕にはいない。
「そういえば」
土方が重い口調で言う。
「これァ山崎の報告だが、カラクリに精通したジジイがいたよな、あいつが何か不穏なエネルギーを感知した、とか言って俺たちのアジトに来ていた」
「何だ、そりゃあ」
銀時も訝しそうに土方を見つめる。
カラクリのジジイ、とはおそらく平賀源外のことだろう。
「俺たちのアジトから高エネルギーが出ているらしいが…誰も心当たりはねェ。爆弾処理班も何も検出しなかった、と言っていた。お前らも気ィ付けろ」
土方がそっけなく言うのを心地よく聴きながら、銀時は分かったよ、と返事をする。
「まァ、長くなりそうだ、どっか入ろうぜ」
夕闇に飲まれていく丘を子供のように駆け下りて、銀時は言うのだった。




「おかえりアル銀ちゃん」
かろうじて屋根の残る万事屋に戻ると、神楽が銀時を迎えてくれた。こんなぼろ屋で待ってくれている神楽を、銀時は少し気の毒に思う。
「お前何してんの。もう深夜じゃねェかよ。寝ろ」
「どこ行ってたアルか?またトシのとこアル?」
「また、ってどういう意味」
そんな頻繁じゃねえだろ、と銀時は毒づく。
「いい気分で帰ったら、何だよ一体」
神楽は続ける。
「源外のジジイが来たアル。銀ちゃんに大事な話があるって」
「ジジイが?…ふーん…」
「銀ちゃん…」
珍しく神楽は不安そうな顔をする。銀時は訝しんだ。
「どうしたんだよ、オメーらしくねェな」
「明日、ジジイのとこに行くアルよろし」
「わーったよ。今日はもう寝ろ」
神楽の頭を撫でると、チャイナ頭の少女は定春の毛の中に戻り眠りにつく。ぼろぼろのソファーに腰かけて、酒の匂いのする吐息を吐きながら銀時はため息を付いた。
酒臭いアル、と神楽が言うのを、銀時は知らないふりをして微睡んでいった。




黒髪を靡かせて、アジトを颯爽と進んでいく。
土方十四郎は、監察であった山崎を呼びつけていた。
「ああ、副長…昨日は、旦那と何処で飲んできたんですか」
その言葉に眉間の皺が増えたのを見て、山崎はあっと声をあげる。すぐに、すみません、と謝った。
なんてこの男は気が弱いのだろう。
「俺はもう副長じゃねえ。あと、そんなことはどうでもいいんだよ。機械仕掛けのジジイはなんて言ってた?」
昨日、銀髪と飲みに行っていた間の出来事を聞き出すために山崎を呼んでいる土方にとっては、その質問はあまり気持ちのいいものではない。しかも、思い出させられた銀時の唇の感触が、更に土方を不快にさせるのだった。昨日、あのまま昔のように体を預けてしまえなかった自分に多少後悔していたのだ。
「ああ、ええと…そうそう、なんだか、あの人の開発したアルタナエネルギーの感知機械が、万事屋とココのアジトから反応する、って…」
「ふーん…アルタナエネルギー…そりゃあ一体…」
「旦那が倒したはずの虚、そいつに備わってた不死の力ですよ。一体この場所のどこからそんなものが」
「近藤さんは知ってんのか」
「いいえ、まだ」
「言わないでおけ、この件は俺があたる」
「はあ…」
気のない返事をして、山崎は下がっていく。
土方は外に行くために螺旋階段を下りていく。その途中に、栗色の髪の毛が通せんぼするように立っていた。
「どこへ行くんですかィ、土方さん」
「野暮用だ」
「アルタナの件で?」
「そういうことだが」
「…チャイナが良く知ってまさァ、あいつの母親はアルタナエネルギーの為に命を落としてるはずでさァ」
「詳しいな」
「まあ。アイツとは腐れ縁なんでねェ」
ご一緒しますぜ、そういうと沖田はフーセンガムを膨らまして螺旋階段を下りていく。それを土方は見ながら、自身も階段に響く靴音を聞いていた。
昨日とは打って変わって、外は晴れ間が広がっているのだった。
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