銀土(原作設定)
□夏の日、残像
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まさか、から、もしかしたら、と。
土方の姿が見れるだけでもいいのにと思いを馳せる。
土方のことを見ると、昔の自分を思い出す。守ろうとして傷ついて、それでもまた守るしかない。土方には、それでも前に進む強さと、儚さがある。
自分を見た時の土方の嫌そうな顔を思い出して、銀時は苦笑する。どうも嫌われたもんだ。まあ、自分の大将をコケにされたらそうなっても仕方ない。そもそも出会いが悪かったのだ。
とぼとぼと歩きながら、銀時はすぐ近くにある公園のベンチに座る。ここなら誰に邪魔されることもない、祭りの音を聴きながらビールが楽しめるだろう。神楽が楽しければ自分はついてきた甲斐もあるものだ。
一口ビールを飲むと、久しぶりの麦芽の美味しさに心が躍る。遠くに響く太鼓と盆踊りの詩が、心を震わす。なんとなくもの悲しい、これからの夏の終わりを予感するかのような…
「おい、クソ天パ何してんだこんなとこで」
後ろから声を掛けられ銀時はびくっと反応した。
「土方…」
会いたいと思ってた人物に突然会うと、人間は固まってしまうものだ。硬直する銀時を見て、土方は笑った。
「何固まってんだ。職務質問するぞコラ」
歩き煙草をしながら、このガラの悪い警察は俺の隣に腰を降ろしてくる。まさか、いや、どうして…銀時の頭の中は軽くパニックになっていた。
「いや…俺は神楽の付き添いで…って、お前こそ警察がなんでこんなとこに。息抜きですかコノヤロー」
苦し紛れに、自分の動揺を隠して銀時は言う。
土方は着流しではなく、紺色の浴衣を着ている。明らかにプライベートの服装だった。
「…近藤さんが志村の姉に会うからって連れてこられたんだよ。でも煙草は吸えねえし、人ごみで疲れるわで逃げて来た、それだけだ」
ふーっと煙を吐いて土方は言う。銀時は少し緊張しながら話しかける。
「へ−え。忙しいのにゴリラに頼まれると浴衣とか着ちゃうんですかどんだけ手前の大将好きなんだよ…呆れるねェ」
土方は笑って言う。
「自分の大将に甘いのは承知済みだ。あの人はあれでいいんだ。テメーには分かるめェがな」
薄暗いがその笑った顔が珍しくて、銀時は自分の心が歓喜しているのを感じる。この男がこんなに自分の前で無防備にしていることなど、滅多にない。少しは心を許していた、ということなのだろうか。
銀時はビールをまた口に含む。さっきと同じ、いや、隣に土方がいるだけで更においしく感じるのは気の所為だろうか。