銀土(原作設定)
□夏の日、残像
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殴られた頭を擦りながら、銀時は皆に言い放つ。
「あー、俺、ビール買ってくっから。オメーらはまあ、何かその辺にいろや」
「分かりました、多分神楽ちゃんは櫓に乗りたいだろうから、僕は姉上と写真撮ってますね」
新八がそう言うのをいいことに、銀時は身を翻してビール売り場に向かった。
カラン、コロン、と下駄の音がする。
久しぶりに下駄を履いた。昔は下駄しか履いていなかったのに。そう、松陽と過ごしたあの時は…
久しぶりに昔を思い出す。それと同時に、夏祭りで松陽とはぐれた記憶が蘇ってきた。あの時はこっぴどく怒られたっけ。
ビール売り場で、生ビールを買おうと並んでいると、前から銀サン、と声がかかる。
「銀サン、来たんだ?しょうがないから一杯奢ってやるよ〜」
生ビールを注いでいるのは長谷川だった。
「長谷川さんじゃん…ナニ、バイトしてんの」
「そうそう、ほら、お登勢さんがさ、良かったらバイトしないかって。ここ、スナックお登勢の名義で出してるんだって〜」
後ろにはかすかにキャサリンの耳が見え隠れしていた。
見つかると面倒くさいような気がして、銀時はビールを受け取ると早々に離れようとする。
「そーなんだ…サンキュー長谷川さん。じゃあ、な」
長谷川は鉢巻きが板についていて、それを見ているとあの男が真選組の更に上のエリートだったことも忘れてしまいそうだ。でも生き生きと働く長谷川は、これで良かったのかもしれない。
ビールを片手に、銀時はお面売り場を横切る。
そこには狐のお面があって、昔の事が思い出された。
そう、松陽に買ってもらったことがある。
まだ桂や高杉が門下に入る前の話だ。
初めてお面が自分のモノになったのが嬉しくて、その日は眠れなかったっけ。
銀時は懐かしくて、ふとそのお面に手をやった。
「はい、兄さん、毎度あり」
的屋の兄ちゃんがそう言って面を差し出してくる。仕方なく銀時は金を払う。五百円もするとは、全く高くなったもんだ、と思いながら。
ビールを一口、お面は斜めにかぶり、銀時はふらふらと入り口の方へ出て行く。人ごみが多くて、なんだかくらくらする。それとも、久しぶりに松陽の事を思い出したからか…
遠くの櫓を見てみると、どうやら神楽が妙と一緒に踊っているらしい。銀時はほっこりと心が温まっていくのを感じていた。
それでも、何故か心の中はすっぽりと穴が開いたようになる。
その穴を埋めるように、銀時は土方の事を想い出していた。土方のことを考えると、何故か心が焦れる。
この感情が一体何かは分からない。でも隙間が無くなって、満たされるかのように修復していくのだった。