銀土(原作設定)
□茶碗の中
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山崎が走り去り、土方は深いため息をつく。
沖田は対照的に、けらけらと笑っていた。
「ほーら、皆休みたがってたんですぜ。これだから仕事の鬼はー」
からかうように言う沖田を、近藤が遮った。
「おい総悟、もういいだろ。トシだって隊の事を考えての事だ」
土方は、黙って紫煙を吐き出す。
みんな、の気持ちなんてクソくらえだ、と土方は思う。
いつだって個を殺し、集団の利益を追求した奴が勝つ。個人の意見など、聞いていたらこの隊自体が成り立たない事を、土方はよく知っていた。
沖田はまだ若く、隊より個人、個人よりは近藤、その図式が強く己にあるのだった。それを近藤も、土方も、分かっていて咎めないのだ。
それだけ、この栗色の髪の青年が気に入られている、その一言に尽きる。
山崎は、息を切らして近藤を呼びに来た。
「局長、こちらですっ」
「…うむ、ありがとう」
土方はふう、と煙草の煙を吐き出した。
「トシ、こっちがあったかいぞ。こっちに座ろう。総悟、お前もだ」
近藤に言われ、沖田は素直に従った。
土方は通りがよく見える、際の席を選んだ。
「…どうしやした、土方さん。アンタ、よっぽど天邪鬼なお人でェ」
「…いや、いいんだ」
土方が通りを眺めていると、山崎が緑茶を差し出した。
「副長、どうぞ。あったまりますよ〜。あ、団子もありますよ。みたらし」
山崎が差し出した団子を見て、土方は目を逸らした。
「団子は…俺ァいい。お前が食え」
そういうと土方は緑茶を啜った。
かじかんでいる手に、お茶のあったかみが身に染みる。
ふと、外を見ると、大粒の白い物が空から落ちてきた。
「…雪…」
土方は呟く。
団子、と山崎に言われて思い出した銀色を、また雪を見て思い出す。そういえば、あいつ…白夜叉って、呼ばれていたんだった。
「…はあ…」
なんであいつの事ばかり思い出す?
今は勤務中だ。それに、こんな緊迫してる任務の最中だってのに…
ホント、自分があり得ねえ。
こんなに、あいつにほだされるたァ…
鬼の副長の名が廃る。
勘弁してくれ、と土方は心で項垂れた。