銀土(原作設定)

□はじまり。
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パチンコ店にて。
銀時は久しぶりに、フィーバーしていた。
こんなの何年ぶりだよ、と自分に問う。
やっぱ来て正解だった…今日は焼き肉だな。神楽と新八が喜ぶ。
そう思いながら、ふと、来る途中に土方に会ったことを思い出した。

「…あいつ…耳まで真っ赤にしやがって。ほんとにかったい奴」

ぼそぼそと独り言を言いながら、ポケットに手を入れる。
さーっ、と血の気が引いた。

やばい。

あれは、長谷川さんの嫁が、俺に託したものだ。中身は知らないが、あれを無くすなんて、俺の中ではありえない。やべえ、でも…俺、今、確変入っちゃってますけども!?

銀時は、右手に掴んだイチゴ牛乳のパックを飲み干すと、隣にいた武蔵的なおじさんに自分の台を託した。

「おじさん、悪ィけど、これやっといてくれよ」

おじさんは、何も言わず、こくり、とだけ頷いた。




街中に、銀時の走る音が響いた。
気が付くと、もう夕方で人通りもまばら。

たぶん、たぶん…あの時…
土方が俺の胸倉を掴んだ時だ。
あいつ…
いつもいつも俺にキャンキャン吠えやがって。
ちょっとからかってやったら、耳まで真っ赤になりやがるし…下手な地もの(素人女性のこと)よりめんどうくせえやつだ。
はあ、と銀時はため息をついた。
土方のことを考えると、胸がもやもやとして、今まで感じたことのない感情が湧き出てくる。

「くそっ…なんだってンだよ…」

絶対、今日これが終わったら風俗行こう。
京都、行こう、みたいなノリで銀時は呟いた。

なぜだか分からないが、土方に会った日は、風俗に行きたくなる。
女を抱けば、心が焼け付くようないやな気持ちを、少しは払拭できる、と思いこんでいるのだ。

夕日が大分沈んできたようで、辺りは真オレンジ色に染まってゆく。
公園の遊具が、オレンジに染まっていて、綺麗だ、と思った。子供たちのシルエットは黒く、黒とオレンジのコントラストが映えて銀時の目に映った。

ふと、路上に目をやると、帯刀している黒いシルエットが浮かぶ。それもまた、オレンジに縁どられ、美しかった。

「綺麗…」

銀時が呟くと、おい、と声をかけられた。

低い声。
よく見ると、黒いシルエットは土方だった。

「お前…なんで、ここに」

銀時がみているのは、紛れもなく土方。その証拠に、紫煙を吐き出している。

「これ、落としただろ」

小さい箱を差し出した。

「!…これ…探してた」

ふん、と土方は言って、煙草を咥えた。

「だろうと思って、持ってきたんだよ。…にしても、遅かったな。帰ろうかと思ってたところだ」

土方の手から、箱を受け取った。指が思っていたより細く、どきり、とした。

「いやあ、絶対お前に胸倉掴まれた、あの時だと思ってたんだよ、よかった。サンキュ」

ふう、と銀時は一息ついた。
あれ、と銀時は土方の顔を覗き込む。

「返すもの、もう一つなかったっけ?」

途端に土方の顔が強張る。
更に、みるみるうちに赤くなっていくのが分かった。

「…あれは、総悟が…押収してる」

ははは、と銀時は笑った。

「押収ってなんだよ、ただの横領じゃねえか、職権乱用してよ」

そんなに気に入っちゃったの?とからかうようににやにやと笑う。

「違う、そんなんじゃねえ…」

ばつが悪そうに、土方は俯く。
それをみて、銀時は心の奥がじりじりと焼け付いていくのを感じていた。
夕焼けのオレンジが、黒髪に光って、とても綺麗だった。
返すよ、必ず、と土方は言った。
いつ?と銀時は聞き返す。

「こ…今度…」

「土方君が、返しに来てくれるの?」

ああ、と土方は言うと、悪かったな、間違えてよ、と続けた。
恥ずかしそうな土方をじっと見ていると、ずいぶん整った顔をしている男だ、ということに気付く。

「土方…お前って…随分キレーな顔してんのな」

「はあ!?…お前、何言…」

「いや、今気づいたんだけどさ、しかも」

夕日に光って綺麗、黒髪。
そう言って銀時は土方の前髪をひと房、撫でた。
土方ははっと、跳ねるように銀時から離れた。
その顔はほんのりまだ赤い。
くす、と笑って銀時は言う。

「土方君が返しに来るってことだよな」

土方は、今までの軽い銀時と、表情が違うと感じた。俺と、約束しようとしている…?

真剣な赤い瞳に、吸い込まれそうになって、土方は目を逸らした。

「ああ…俺が、返しに行く」

酒用意して待ってる、と銀時は言って、くるりと方向を変えた。元来た道を、戻るのだ。

土方は、手に持った煙草が、かなり短くなっていることに気づいた。そんなに時間が経ってたのか、と。

「万事屋…どういうつもりだ…」

煙をまき散らして、土方は路上を後にした。
土方もまた、胸にチクリ、棘が刺さったような感覚を覚えていた。居心地が悪いと感じ、その場所を足早に去ったのだった。
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