3Pのお部屋
□お月見一杯!(銀土月、銀月土)雨さんリク作品
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夜も深くなる頃、男たちは博打に精を出していた。
サングラスを掛けたこの男、名前は長谷川泰三。
元、幕府のエリート役人である。
しみったれた部屋の奥、悶々と煙草の煙が立ち込める中で、彼は花札の桐を待っていた。
自身の札を拡げてみる。
そこには20点の桐の札があるのだった。
対して、向かいの銀髪の男。
しがない男である。
なけなしの金を、この最後の戦いにつぎ込んだこの男は、自分の札を見もせずに、もう一人の面子の捨て札に目をやっていた。
この銀髪、全く何を考えているのかわからない。
時折、欠伸をしては眠たそうに眼尻からはみ出た涙を袖で拭った。
対して、長谷川は額に汗を掻いている。
場札には桐は無く、持ち札はあと二枚。
長谷川の番は一番手である。
この桐の札が自身のものにならなければ、点数は稼げずおそらくこの勝負、長谷川の負けになるのだった。
しかし、隣の欠伸をしている男。
銀時も全く同じで、やっぱりこの勝負で最後のはずだった。
これが勝てなければ、全てが無に還る。
しかし、此奴の緊張感は全くと言っていいほど皆無だった。
(余裕あるな銀さん…何か策があるのか…?)
眼でアイコンタクトを取ろうとしても、相手は全くこっちを見ない。
どころか、札を持っていない右手で、自分の鼻糞をほじり始めた。
「…」
コイツ…。
馬鹿なのか、本当の天才か、読めない。
長谷川はそう思った。
自分の最後の札が、場に翻る。
それは紛れもない20点の桐の札。
長谷川は息をのんだ。
山を一枚、めくる。
それは雨のカス札だった。
「うわああああっ…」
長谷川は崩れ落ちる。
(俺はダメだ銀さん…頼んだ…何とかしてくれっ…)
銀時はもう一人の面子が、赤の短冊札を奪うのをぼーっと見ている。さらに男は、山から桐の札を引き、長谷川の20点札に当てた。
「20点追加」
男はそう言うと、嬉しそうに自分の札を並べていく。
「へーえ、やるねえ。おたく」
他人事のように呟いて、銀時は余裕の表情を見せた。
そのまま、銀時は自身の雨の20点札を長谷川が放ったカス札に放った。
長谷川は唸った。
(持ってたのかよ銀さん…)
銀時は山をめくる。
そこには、菊の柄に盃が映っていた。
「お、俺、お月見一杯ね。これでトータル30点。逆転…かなァ」
にひひ、と銀時はほくそ笑む。
自身の札の中には、山の20点札があった。
「銀さん!やった、やったあ!」
長谷川がはしゃぐようにして言うのを、銀時はまあまあ、となだめる。
「さ、約束だ。今までの負け分、返してもらうぜ」
今日はついてる、と銀時は呟く。
そして、その揃った月と盃の札をじっと見つめていた。