パラレル

□甘党に後ろ髪
1ページ/5ページ

いつの間にか、そいつの部屋に入り浸っていた。
 いつの間にか、そいつは俺の最も近くにいた。
 少なくとも、俺が望んだことではないのに。
 でも最近、何かがおかしい。
 あいつを見つけると、胸が痛む。それがどうしてなのかは、俺にも見当がつかないのだ。




「土方さーん、どうしたんですかィ湿気た面しやがって」
 後輩の沖田総悟が、食堂で話しかけて来た。
 「ん…いや、別に」
 なんとなく、言葉を適当に返して俺はマヨネーズを口に放り込む。それを見て、沖田がいつものようにうへえ、とベロを出して不味そうな顔をする。
 「コレだけは、勘弁でさァ」
 「一回だけでも食ってみりゃあ人生変わるぜ」
 「人生変わるのは興味ありやすがねェ…」
 沖田は自分の食事を運んでいた。コイツは毎日同じものを食わない。今日はラーメンだった。
 「毎日違うAランチが、俺は嬉しいですねェ。まァ、今日はラーメンですが」
 割り箸を割って、いただきやす、と言って食べ始める沖田を見つめつつ、俺は更にマヨネーズをどんぶりに重ねる。
 「うわあ…」
 「何だよ」
 沖田を睨むと、奴はいや、と言ってすぐにラーメンを貪りだした。
 麺をちゅるんと口から出しながら、沖田は言う。
 「そーいやあ、旦那とは最近会ってないんですかィ」
 旦那、という言葉を聞いて俺は心臓が飛び出るかと思った。
 「…会ってないな」
「どうしたんですかィ。やっぱり麻雀で負けるの、そんなにきつかったですか」
 「…まァな」
「そりゃあ十万円分の家事をやる、なんて俺でもぞっとしまさァ。よく今まで何回も引き受けてやしたねェ…逆にすげえや。あの人ァプロになるんじゃねーですかィ。強さが桁違いでェ」
 俺、土方十四郎はひょんなことからある男に麻雀で負けた。その、麻雀で負けた金額十万円。その負け分を支払わなくていい代わりに、何でも言うことを聞くー。それが勝った男、坂田銀時との約束になっていた。
 最初に負けた日。俺は、坂田の家に招かれた。
 家事は得意じゃない、という俺に、坂田は媚薬を使い自分の思い通りにしたのだ。
 
『さァ、十万円のお仕事して?』
『う…嫌、だ…』
『だーめだよ、自分だけイッといてそりゃあないんじゃない?ちゃんとご奉仕して…』
『そうそう、いい子だね土方君ー』

言いなりになった俺は、坂田の欲望に任せて様々なことをさせられた。そしてー

『ああ…、いく、いっちゃ…』
『ああ、土方…俺も』

男と、そんな関係になったのは初めてなのだ。

それからも、俺は何度も坂田に負けた。坂田は強く、麻雀サークルに属さない俺は全く歯が立たなかった。俺が負ける度に坂田は俺を家に誘い、そしてー

そのあとは言わなくても分かるだろう。俺達は支払いの為に繋がっていたのだ。でも何時からだろう、麻雀に関係ない大学構内で坂田に会うと、心臓が飛び出るくらいの動悸に襲われるのだ。俺は坂田に会いたくなくて、沖田とも一緒にいないようにしていた。沖田は坂田と同じ麻雀サークルの仲間なのだ。
ふわふわの銀髪を見る度に、俺の心は揺れる。
「旦那、寂しがってやしたぜィ」
「まさか」
「土方君最近来ないね、って言ってやしたけど…携帯の番号教えてもいいですかィ」
「ダメだ」
「どうして」
俺は自分のトレーを持ち上げると、椅子を引いて机の中に入れた。そして沖田に言う。
「俺はサークルの人間じゃないしな。坂田には敵わねーよ。そう言っておいてくれ」
「土方さん…」
寂しそうに沖田が呟くのを背中で聴きながら、俺は食堂を後にした。沖田の舌打ちが聴こえていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ