パラレル
□マヨネーズと機関銃
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バラバラと激しい音が土方の耳を騒がしていた。
煙草が充満する部屋。男の匂いしかしないここは、とある寮の一室である。
住処にしているのは、長谷川という男。
大学三年生である。しかし三年と言うと聞こえはいいが、中々四年に行けず今年で大学生五年目、というから中々の心臓の持ち主である。
大江戸大学の二年生である土方十四郎は、麻雀の最中である。当然四人、面子がいる訳だがどうも雲行きが怪しい。ここにいる男たちは全員大学の麻雀サークルの部員たちだった。
一人は長谷川。もう一人は土方の高校の後輩である一年の沖田。最後は土方と同じく二年の坂田。
一つ断っておくが土方はサークルの一員ではない。
麻雀は自分でもかなり得意な方だ。
しかし、半荘での第四局、親は西の坂田。
この男、本日かなり調子が良い。
土方は手堅くメンタンピンを狙い満貫、ドラ、裏ドラが乗れば跳満を狙っていきたいと考えている。
しかし、この坂田という男…
手の内が読めない。それもそのはず、この男は全くリーチを掛けないのだ。
おそらく状況に応じて上がる役を変えているのだろう、土方は背筋に冷たいものが走るのを感じていた。
捨て牌を見ても、字牌が続いたかと思うとバラバラの牌を捨ててくる。どうやら自分たちの捨て牌を見て、目まぐるしく役を変化させているのだろう。
「旦那ァ、今回はアンタに勝てる気がしねェ」
沖田がそう呟くのを、土方は聞きながら動揺しないように煙草に手を伸ばす。長谷川がすかさずライターを貸してくれた。
すみません、と一言言って、土方は煙草に火を付けた。
「いやあ、銀さん強いね…土方君、大丈夫?俺達麻雀サークルの人間はさ、こういうの慣れてるけど…賭けるのやめたらどう?コレ何万になるか分からないよ…」
助け舟を出してくる長谷川は、本当に優しい奴だと思う。心配そうに自分に気を遣っている。
それに比べて、この坂田という男。
さっきからにやにやと笑って、全くと言って腹が立つ男である。自分の勝ちを確信している顔だった。
(クソっ…)
煙を吐きながら、土方は心の中で呟く。
「ああ〜、まァ、今日は調子がいいっていうか?何だろうねェ〜どうしてこんななんだろうねェ…不思議だなァ」
軽く言う坂田に、内心煮えくり返っている土方は顔を見ようともしない。
やられた。
やっぱりあの喧嘩は買うべきではなかった。
土方は後悔しながら、一昨日の出来事について思い起こしていたのだった。