パラレル

□EXIT
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雨の月曜日ほど、気分が乗らない日は無い。

土方十四郎は満員電車の中で、湿気の多い中年の体臭に包まれていた。

こうも中年が多いと、気が滅入る。
自分が偉いわけではない。
十代の匂いだって、中年や女子にとっては特有の匂いがして嫌なものだろう。

でも、今日のこの車両は最悪だった。

しかも、この路線は長く、おまけに各駅停車と来てる。
間違いなくあと30分はこのままだ。
そう思うと更に気が落ち込む。
大きくため息をついて、土方は吊革をぎゅうと強く握る。

駅について、プシューと扉の開く音がする。
その度に、降りる人間はすみませんと大きい声を出して人の波を押しのけていく。
それに逆らうことなんてできない。

(毎日おんなじだけど…今日は本当に最悪だ)

押されて押されて、波にのまれるように移動しなければならない。
次の乗客たちは多く、土方は波にもまれて端の方に押し流される。丁度角の所にある手すりの方まで流されてしまっていた。

(これ、俺が男だからいいけど、女だったらきっと最悪だろうな)

ふと土方はそんなことを考える。
こんなにも人と肌を密着させて、長い時間居るなんて女性は苦痛でしかないだろう。
自分だってこんなに嫌な思いをしているんだ。

目の前にある銀色の手すり。
それを見て土方はある男の事を想う。
それをぎゅうと掴んで、土方はもう一度ため息をついた。

銀八と、最近会っていない。

まあ、年末のこの忙しい時に、先生と生徒が会う時間もないのが普通だろうけど。

ただ、あまりにも自分の身体は銀八の身体を覚えている。
それが悲しかった。
公務員の試験勉強をしていても、銀八のことがちらついてしまい手に付かないときがある。
それが、抱かれてしまった自分の罪なのだろう、そう言い聞かせる。

でも、銀八の声を反芻して、ついつい毎日のようにしてしまう行為を、土方は恥ずかしく思っていた。
指や、舌。
自分の肌に這うざらついた舌を、思い出して土方はずきんと心が痛む。
あの、舌で翻弄される快感。
指で絶頂させられる背徳感。

一度思い出してしまうと、もう戻れない。
だからこそ、夜の寂しい時には思い出して、慰めてしまう自分がいるのだった。

電車はがたん、と揺れて土方の身体を、他の乗客を揺さぶった。その、大きい振動に合わせて、土方は自分の尻に手が当てられていることに気づく。

「…?」

自分の勘違いだろうか。
土方はそう思いなおし、また気を取り直した。
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