パラレル

□眼鏡越しに見つめて(3Z)後編
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冷えた空気が、教室を包んでいる。
外の銀杏の木は、黄色に染まっていて、風がそっと黄色を揺らしていた。
進路指導の紙を見つめ、土方はため息をつく。
そっと紙の端を掴み、くるくると丸めた。
進路は、決まっていた。
でも土方には、提出したくない理由があったのだった。

銀八の所為である。

春に一方的にキスをされ、何かの間違いかと戸惑っていたが、夏祭りで偶然出会い、また強引に二回目のキスをされたが、土方自身、銀八が最後だと言ったことに納得がいっていなかったのだ。
しかし、あれから全く自分の事を見ない、話しかけない銀八と面談することが嫌でしょうがなかった。
何を言えばいい?
進路の事はいい。でも、銀八に感じているこの気持ち、確かめるには一体どうしたらいいのか…

銀八は、これ以上したらもっと自分を欲しくなる、と言っていた。
それは、どういうことなのか…
なんとなくは分かる。でも、男同士でそんなこと、しようと思ったこともない。
もし銀八とそうなるとして、何をすればいいのか土方は全く分からなかった。

はあ、とため息をついた。

すると後ろから、あ〜あ、と声がする。沖田の声だ。

「な〜にため息ついてんですかい。土方さんの癖に」

「なんだそれ。どういう意味だコラ」

「あんたため息が多すぎでさァ。自分で分かってねェから性質が悪イ」

はあ、と沖田もため息をつく。

「…辛気くせえのがうつりまさァ。とっとと紙出してきなせェ」

土方は下を向いた。それから、うるせえ、と小さく沖田に言う。

自分自身、どうしたらいいか分からなかった。
でも、このままいるわけにもいかない。
やっぱり銀八と一回、しっかり話すしかないだろう。それは、自分でも分かっていた。
土方は意を決したように、椅子から立ち上がる。そして、紙を持つと教室から出て行った。

「…土方さんらしくねえ。進路で悩んでるようには見えなかったが…まあ、銀八と話す気になったなら何か変わるかねェ…」

沖田は教室から見える銀杏に向かって呟く。
銀杏の葉は、はらり、一枚落ちていった。
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