パラレル

□眼鏡越しに見つめて(3Z)中編
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遠くで太鼓の音がしている。
暑い日中が過ぎ、少し暑さも和らいできている。
日はまだ堕ちてはいないが、徐々に青空からオレンジ色の空へと変化している。

夏の真っ盛り、お盆にさしかかろうという土曜日。夏祭りが開催されようとしていた。
土方は近藤と沖田、そして近藤の初めてできた彼女・妙と祭りに行く約束をしていたのだった。
シャワーを浴びて、土方は浴衣に袖を通す。
母親から一通り着付けを教わっていたために土方は浴衣を一人で着ることができた。
これは、結構自分にとって誇らしい事でもあった。

下駄の鼻緒に足の指を通して、硬いことに閉口する。一年履いてないとこれだ。また、来年もこう思うのか、と思って土方はくす、と独り笑う。毎年浴衣を着るのが楽しみなのだった。

カラン、コロン…
下駄の音が乾いたコンクリートに響く。
それと共に太鼓の音が大きくなっていく。お囃子の音が、太鼓に混じって聴こえてきた。
何となく、小さいころに戻ったようだ、と土方は思う。ドキドキする気持ち。この気持ちは、何かにすごく似ている。一体なんだったか…

『意外に鈍感だなァ土方君』

不意に、銀髪の声が響く。
途端に甦るあの時の口づけを、土方は反芻し唇を噛んだ。

あの時。
何故、拒否しなかったのか…
自分は、銀八の事を、今どう思っている?
いや…
何度もあれからこんな風に考えて、ぐるぐると同じところを回っているかのようだった。
あの、口づけ…
あんな事をされたのに、あれから全く銀八と話していなかった。というか、自分からは話しかけることができなかった。
それもそうだろう、自分に男と分かってキスしてくるような奴に。
何と言えばいいのか、土方は分からなかった。





「おーい、マヨ方さん」

聴き慣れた声がするので、そっちを向く。
見ると沖田と近藤、それに妙がいた。
妙の友達の神楽もいて、沖田がすでにちょっかいを出していた。

「コイツ、何でいるんでさァ。空気読めってんだ」

「私はゴリラの魔手から姉御守りに来たアル。そっちこそ空気読め」

キーっと二人で戦いの真似事をし出したので、土方はため息をついた。

「おう、トシ、浴衣似合ってるなァ」

軽く土方は近藤に笑うと、妙の方に会釈をする。妙もそれに合わせてぺこりと頭を下げた。妙の浴衣は紫色の藤の花が美しく、日が落ちてきた今現在の空の色に白地の着物がとても映えていた。素敵だ、土方は素直にそう思った。

(…なんだ、近藤さんの相手、いい女じゃねーか…)

土方は、少しだけ、悔しさを噛みしめた。
お似合いだ、そう思った。
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