パラレル

□眼鏡越しに見つめて(3Z)前編
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学校のチャイムの音が、構内に響いていく。
一斉に席を立つ音。
声、声、声。
毎日繰り返される日常。
その毎日の風景を気怠そうに見ている人物がいた。
3Z組担任の坂田銀八。
彼はゆらり、教室の廊下を歩いていた。
毎年の事だが、今の生徒は…とか、そんなセリフを周りの教師たちは口にしている。
しかし彼だけは、教師と自分の事を強く認識していない様だった。
だらしなく天然パーマをぼりぼりと掻き、ぺたぺたと歩く。
くすくすと笑う女子生徒もちらほらいるくらいだった。
大抵の事はまず、驚いたりしない彼だったが、最近、気になることがあった。
しかし、なんとんもバツの悪いことなので、自分の中にしまっておこう、とこの前心に決めた。
決めたはずなのに、妙に意識してしまってかある人物を見れなくなってしまったのだ。

そう、土方十四郎、という生徒の事を。








「きょうつけー、礼ー」

乾いた声に土方は礼をした。
やっぱり…今日もだ、と土方は思う。
別にあんまり気にしない方なのだが、なんとなく気づいてしまった。
あいつ…俺を見ない。
何でだろう。と土方は思う。
でも別に俺を見ないからって、何か変わると言ったら何も変わらない。だからいいや、と思うことにした。
そんな変なことで悩んだって、何も解決しないのは自分でも分かっていた。
あいつ、というのは、担任の坂田銀八の事である。
いつからか、奴は自分の事を見ない、というか目を合わさなくなった。

(俺、何かしたか…?)

別に何もしていない、と土方は思って、すぐに考えるのは止そう、と思い直す。
奴の事を考える時間がもったいない。今年は受験の年だし、これから忙しくなる。
担任だからって、そんなに好きにならなくてもいい、そう思った。
そもそも、自分は担任の事を最初からいい印象ではなかったはず。
でも何故か、コイツ、いいところもあるんだ、何て思ったりしていた矢先の事だった。
でも、しょうがない。
担任に好かれなくたって、進学できるし、担任にこだわる必要もない。
自分に言い聞かせて、何故か土方は心がずきずきと痛むような感覚を覚えた。

「…なんだ、これ…」

思わず呟いて、隣にいた近藤というクラスメイトがどうした?と聞き返す。土方は何でもねえよ、と答えて、そのまま座席を離れた。
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