銀土(原作設定)

□銀色エレジー
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グラウンド・ゼロ。
それはかぶき町の、現在の呼び名となっていた。
地球と宇宙との闘い、もとい、坂田銀時と虚との戦いは終焉を迎えた。
いや、完全には終わってはいなかった。宇宙から来た様々な天人、更には宇宙海賊たちの残した傷跡は凄まじく、その舞台となったかぶき町の状態といったら酷いものであった。
それを元に戻すため、地球は、かぶき町はもう一度一つになろうとしていた。戦いの終わり、はまだ訪れていない。これからが自分たちの本当の闘いだ。
そんなことを思いながら、志村新八はかぶき町の面々と瓦礫撤去に勤しむ。このところ、ちっとも休んでいない。休日という概念さえ、今の自分たちには無いものだった。
「あ、神楽ちゃん、ちょっとそこの大きいやつさ、一緒にどかしてくれる?」
声を掛けられたオレンジ色の髪の少女は、小さい体で民家が壊れかけた、その大きな壁をひょいと持ち上げている。
「コレあるか、これなら私一人で大丈夫アル」
新八は、神楽が大きな瓦礫を持ち上げてしまったことで生じる凄まじい量の埃にまみれ、咳をしだす。
「ありがとう…ゴホ、ゴホ、いや、しかし凄いな…神楽ちゃんたち天人がいれば百人力だね」
その言葉を聞いて、神楽はエッヘンと自慢気に胸を張った。それからその瓦礫を運びつつ、新八に問う。
「そういえば、銀ちゃん何やってるアルか?昨日は皆と片付けしてたような」
新八はなんて言おうか、と悩む。
そう、この戦争の終結に翻弄した坂田銀時という男、酷い放浪癖と浪費癖、更には爛れた人間関係を持つとんでもない男である。それをこの神楽という少女にどんな風に説明しようか、それにいつも悩んでいるのだった。
「ええと、銀さんは多分…」
言葉を詰まらせる新八に、神楽はあっさりと答えた。
「ああ、銀ちゃんトシの所に行ってるんじゃないアルか」 
新八は、この子はどこまで知っているのか、と不安になる。
トシ、とは真選組副長、土方十四郎のことである。
元々隠しながら、男二人は多分深く付き合っていたんだと思う。でもそれをどこまで、この女の子に教えればいいのか。
「トシと会ってるなら、まだ帰らないアルな…」
瓦礫をトラックに詰め込み、ふうと一息つく神楽を、新八はドキドキしながら見守る。それは、一体どういう意味で言っているのだろう。
「そうだね、昼から酒飲んでなきゃいいけど」
無難な言葉でまとめて、新八はまた瓦礫の山に目を向ける。
自分たちはもう、とっくに死んでいたのかもしれない、と思いを馳せる。
でもこうして生きていられるのは、きっとかぶき町の皆が一つになったからだと思うのだった。
(銀さんがいなければ、このかぶき町も、自分も、神楽ちゃんもばらばらだった。銀さん、アンタ、スゲー侍だよ)
神楽があのちゃらんぽらん、帰ってこなかったら罰金アル、と悪態つく様子をよそに、ふわふわと掴めない銀色の奥底に眠る侍としての魂に、強い憧れと尊敬を抱き青年は悪態をつく。
「ホントに何処ほっつき歩いてんだか…」




「何しに来た」
冷たくあしらう黒い髪の男に、銀時は会いに来ていた。
真選組自体は現在無くなっている。喜喜公が住んでいた城の近くにあった高層ビル、それが壊された跡の損壊の少ない建物の中に黒い彼らはいた。
今では自警の集団、警ら隊と言ってもいい存在になっていた。何かあれば、やっぱり江戸の人間が頼るのは元真選組の彼らだった。
「何かしに来た訳じゃねーけど。大体片付いたのかなーと、思ってさァ」
これという理由を言わずにのらりくらりと躱すような銀時の言葉に土方は酷く懐かしさを感じていた。
「副長サン、付き合えって」
笑みを含んで言う銀時。
それに土方は、今は副長じゃねェ、と返した。
「今は組ァ無くなっちまったが、これでも元役人。忙しいんだがなァ」
皮肉を含んだ声色で土方が毒づくのを、銀時はクスクスと笑って聞いている。徐々に土方の顔色は悪く、怒りが前面に出てくるのが分かった。
そこへ近藤が口を出した。
「まあまあトシ。いいじゃないか、少し飲みに行ってきたらどうだ。こっちは何とか片付いて来ているし、総悟もザキもいるしな」
近藤は昔と変わらない笑顔でその場所に存在している。銀時は近藤がそこに存在しているのが嬉しかった。
「おお、ゴリさん、話分かるじゃん」
二人のやり取りを聞きながら、土方は舌打ちをする。
近藤に言われては、土方が何も言わなくなるのを銀時はよく分かっていたのだ。
「この人ァ、遊びが無くていけねェや。旦那、遊び方でも教えてやって下せェ、この朴念仁に」
近藤の後ろから出て来た沖田は、フーセンガムを噛みながら悪態をつく。土方は舌打ちをした。
「総悟、テメーはちゃんと仕事しろよっ」
「まあまあ、今日くらいいーじゃねェですかい。近藤さんもああ言っていることですし。土方死ねコノヤロー」
「今何か言わなかったか?テメー」
殴りかかろうとする土方を諫めて、近藤は早く行って来い、と手で合図する。
土方は少し考える。しかし、ちら、と横を見ると自分を見つめて笑う銀髪が見えてばつが悪くなる。すぐに土方は自分のジャケットを取って、近藤に言った。
「…じゃあ近藤さん、悪ィ、甘えるぜ」
土方はビルの螺旋階段を下りていく。銀時はその後を追うように、階段に向かって歩いて行った。
カンカン、と乾いた音がする。
すぐに連続してもう一つの音が繋がっていく。
男二人が路上に出ると、そこは瓦礫の山で埋もれていた。
天人たちが残した傷跡は、あまりにも酷かった。
悲惨な光景を目にしているのに、不謹慎にも二人は心が弾んでいる。高鳴る鼓動を、隠せない。
少し離れた距離で、銀時は土方に話しかけた。
「こうして話すのも久しぶり、だな」
土方は答えなかった。
真選組が江戸からいなくなりまた戻ってくるまでの間、万事屋一行を思って、真選組の面々は歯痒く思いながら蝦夷への道を進んでいた。自分たちも残ってかぶき町を守っていたい。皆と肩を並べて、全てを分かち合いたい。長年暮らした街に愛着があるのは同じだった。
「ゴリラもさァ、ちょっと雰囲気変わったよなー、お妙の所為か?あっちでもお妙サーン、って泣いてなかった?」
銀時はコミカルに近藤の真似をして笑う。
近藤は志村新八の姉、妙に岡惚れしている。土方は道中、近藤が泣き言を言ってくるのではと警戒していたが、そのようにはならず拍子抜けした。どうやら、何かあったのだろうか。いつもの近藤と違って凛としていて、近藤の根本はこういう人間なのだと再確認することとなった。
「それァ無かった。近藤さんも色々あったんだろ。ありゃあ絶対、近藤さんに惚れてる」
土方はぶっきらぼうに答えた。
ふーん、と銀時は自分が訊いた割には興味がなさそうに答える。
瓦礫のトンネルを抜けると、土方は小高い丘を駆け上がった。後ろにはまだ咲き始めの桜の木が連続している。
そこから見下ろすと、小さく固まった出店のようなもので、ずらりと道ができている。
この宇宙戦争が終局を迎えてから町の人間が立てていったもので、言うなれば繁華街、飲み歩きの居酒屋がある場所だった。
「おおー、スゲーな。なんか生きてるって感じする」
銀時が感嘆の声をあげるのを、土方は気持ち良く聞いていた。
「どっかで飲むか」
「うん。そーだな…でも」
銀時は隣に並んだ土方の、肩を引き寄せた。
土方は突然の事に驚いて体を強張らせる。
「ちょっと、こっち味見してェな」
「おま…オイ、突然…」
「聴こえなーい」
拒否の形を取る土方に、銀時はそう言って唇を寄せる。土方はそのまま、重なってくる銀髪に自分の口腔を預けた。
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