銀土(原作設定)

□別離の日(黒ver.)
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いつか、この日が来ること…
分かっていた、知っていたつもりだった。

いつまでも一緒にいられないことは、自分がとうに分かりきっている、と思っていた。

あんな風に、誘って、あいつが雨の中待っていた…そんなこと、いつものことなはず。

でも…

今日は、違っていた。






江戸に、残る…と。
そういうだろうと思っていた。
あいつはそういう奴だ。
誰の指図も受けねえ。誰にも…流されることがねえ。

今までも、これからも、奴のあのゆるぎない心は、変わることがねえ。

あんなに…髪の毛までふわふわしているってのに、あいつの心には真っ直ぐ、折れねえ一本の柱があるんだ。

「ごちそうさん」

定食屋の女将が、声を掛けてくる。

「土方さん…お元気でね。土方スペシャル、作って待ってるから、必ず帰って来るんだよ」

俺はひょいと片手を挙げて挨拶すると、煙草を指で挟む。差した番傘に、雨音がうつりだしていた。

後ろから、奴が番傘を差す音がした。

「土方くーん、もう行くの」

「…」

俺は返事をしないでいた。

「土方スペシャル食ったら、何か気持ち悪くなった〜どっかで休んでいこうぜ」

「…そりゃこっちのセリフだ」

久しぶりにあんな甘いもんを食べた。

「口の中が甘くてかなわねーや」

すかさずあいつが言う。

「そりゃこっちも同じだっての。口の中がマヨ祭りだっての」

お互い、くすっと笑う。

思えば、こいつと会ってから…もうずいぶん経ったんだな…としみじみ思う。

見ればむかつく銀色な髪が、いつのまにか…
見る度に、魅せられていく銀髪に変わっていた。

もう一度…
最後、もう一度だけ。

これで最後かもしれない。

銀髪に、触れたい。
そう思った。





いつもいつも、囁いてくる甘い言葉。
応えられないまま、月日が過ぎて…

身体で、心で、きっと自分の心は漏れていると、そう思いながら…快感にほだされて、何も言えないでいる。


甘い口づけは、果てしなく続いて

この瞬間が永遠であれば、と思わせる

自分の黒い心が銀色に染められていく

その刹那に、心を同じにしてお互いに吐露する罪の重さ

何度体を合わせても…決して

溶け合うことはないのに…

いっそ、一つに溶け合えたら…

こんなに、苦しい思いをしなくていいのか?


「あっ…あっ…ぎん…ときっ」

「…土方…ひじか…た」

何度も何度も、今までに迎えたはずの絶頂が、今日は酷く色づいて…

抱きしめあい、汗まみれでお互いを確かめ合う。












その一言は、言えないまま。







酒は、いただくが…
てめーの心も、いただくぜ

待ってる…

帰ってこいよ、十四郎


銀色に染まった俺の視界で、奴はそう呟いた。




Fin.



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