銀土(原作設定)
□茶碗の中
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凍てつく冷気が、真選組の面々を包む。
松平家の護衛で、彼らは冬の江戸の寒空にいた。
空気は乾燥して、ピリッと肌に痛いほどだ。
黒の制服がここまで揃うというのは、珍しいことでもあり、精錬とされた彼らのふるまいは、江戸の住民にとってもあこがれの的だった。
真選組局長・近藤勲は、あまりの寒さに根をあげていたのだった。
「いや〜、寒いなあトシ。こんなに冷えるとウチのやつらだってさァ…」
「あ〜、近藤さん、土方さんに言ってもだめでさァ、この人は人の温かさってもんを忘れてるんでェ。寒さを寒さと感じねえんですぜ」
根をあげる近藤に同調する沖田は、かわいい顔をしながら中々の毒舌で、副長の土方もいつも気を揉んでいる。近藤には甘い土方だったが、沖田にはどうも、突っ張っているようにも見えた。
「なあトシ。ここはひとつ、休憩ってのはどうかな?」
土方は眉間に寄せた皺を更に深めた。
「…近藤さん、気持ちは分かるが、今ここで休んじまうと下のやつらに示しがつかねえ。そればかりか、お上の機嫌を損ねることにもなりかねねェぜ」
はあ、と沖田は深くため息をつく。
「出ましたぜこの仕事の鬼。まーったく、冗談は分からねーわ空気読めねーわ。今は休憩の流れだろィ土方コノヤロー」
土方は咥えていた煙草をぎり、と噛んで沖田の胸倉を掴んだ。
「オイコノヤロー総悟!!お前はどーして…」
「まあまあ、トシも一服がてら、少しあそこの茶屋にでも寄ってみよう。いいな?トシ」
凄む土方に、近藤はぽんぽんと肩を叩き、諌めた。
それを見て沖田は、べーと舌を土方に向かって出した。
むぎぎ…と怒る土方も、近藤の前では自分を抑え、好きにすればいい、と目を伏せた。
途端に山崎が、白い息を吐きながら意気揚々と話しかけた。
「じゃあ、俺が席を確保してきます、局長たちはゆっくり来てください」
勢いよく走り出す山崎。それを見て、ポリポリと頭を掻く土方。煙草の煙を吐き出し、どいつもこいつも…と呟いた。