銀土(原作設定)
□はじまり。
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あ〜、かったるい。
いつもの自分の家、自分の机の上に、重たい足を乗せてつぶやく。
すでに読み終えてしまったジャンプは、真ん中で開かれたまま机の上でひらひらと踊っている。
「なんか、おもしれえことねえかな」
ぼそっと呟くと、ふう、とため息をついた。
この男、かぶき町では有名な男である。
名前は、坂田銀時。
銀髪に赤眼、腰に木刀を差して今、冷蔵庫にふらふらと歩いているこの男、とんでもないちゃらんぽらんだが、どうやら腕はたつらしい。
冷蔵庫にたどり着くと、中からイチゴ牛乳のパックを飲み干した。
ぽたぽた…と、最後の甘い一滴を自身の口腔に滴らせると、あら、と言葉をこぼした。
「ぜんぜん入ってねえよ…神楽のやつ、俺のイチゴ牛乳飲みやがったな」
チッ、と舌打ちすると、ぼりぼりと尻を掻きながらまた机に戻る。
今度は机にドカッと腰を下ろした。
「イチゴ牛乳がないと、調子でないんだよね…いや、飲んだからと言ってすご〜く出るかと言われると、そうでもないんだけどさ」
ぶつくさと言いながら、今度は机の引き出しを漁りはじめた。
「あっれ〜おかしいな、これは…長谷川さんにに借りたお嬢様調教のDVDだ、こんなとこにあったんだ〜」
ははは、と笑いながら、DVDを取り出す。
さらに奥に手を伸ばすと、何やら紙袋が出てきた。
「あったあった、これこれ」
紙袋の中から、小さい箱を取り出す。その下に、一万円札が忍ばせてあった。
「長谷川さんの嫁に、この箱渡すように頼まれてたんだよね、謝礼金って言ってもらいつつ、忘れてたよ俺。よかった〜使わなくって」
小さい箱と、万札をポケットにしまうと、DVDを紙袋に入れて銀時はつぶやく。
「この一万を、今から五倍にして…いやいや、まず長谷川さんにこれ返さなくっちゃ」
いや、でもあれだな、今の時間パチンコすげえ出る時間じゃね?そう言いながら、銀時は鍵も締めずに家を後にした。
「あれ、旦那じゃねえですかい」
ふと、街中を巡回中のお巡りさん、真選組の副長・土方十四郎は、部下である沖田に声を掛けられていた。
「…確かに、奴だな」
ふーっと煙草の煙を吐き出すと、土方は低音のいい声で呟いた。少し小走りで、何か紙袋を小脇に抱え、キョロキョロとしながら進むその姿は、怪しいの一言に尽きる。
「何抱えてんでしょうね」
尋問するか、と言い、煙草を灰皿に擦り付けると土方と沖田は銀時の歩いている歩道に移動した。
(あいつ、昔は攘夷志士だったっていうしな…何か企んでるのかもしれねえ)
「おーいちょっと待った。真選組だ」
土方がそう声をかけると、銀時はびくう!と体を強張らせた。
「ん?…なに?真選組のお偉いさんが何の用?」
「とぼけてんじゃねえぞ、挙動不審」
「旦那、明らかに怪しいですぜぃ」
いやいや、何言ってんの、と銀時はとぼけようとしている。
それを見て、土方は声を荒げた。
「お前の持ってるその紙袋、怪しい」
はあ?と銀時はまたとぼける。
「いそがし〜い真選組の方々が、一般市民の持ってる紙袋を怪しいなんて…よっぽど警察もヒマじゃねえの…」
「ああん?てめえ今なんつった?」
土方は銀時の小ばかにした態度に、突然胸倉を掴みあげた。
「まあまあ、土方さん、旦那相手にそんなにむきにならんで下さいよ、知らない仲じゃねえんですし」
銀時は土方の手を振り払うと、そのとおりだぜ総一郎君、と付け足した。
「総悟だって言ってるじゃねえですか旦那」
くすっと沖田が笑うと、銀時は俺は男の名前は憶えねえの、と返した。
「何でもかんでも突っ掛ってくるなんて、副長さんも時間を持て余してると見た。どうよ、今からパチンコ行くんだけどよ、お前らも行く?」
沖田が手を振る。
「せっかくの誘いですが…この堅物が隣にいたら、さぼりもできやしねえ」
「チッ」
土方が舌打ちする。
「そんなことより、紙袋の中身を見せてみろ、何も無ければパチンコでもなんでも、好きなところへ消えろ」
銀時が少し躊躇う。
「…見せてもいいけどよ、一応人から借りたやつだからね、これ」
「…ますます怪しいなてめえ、大体何かしら怪しい物を持ってる奴らはみんな、人から貰ったとか、借りてるとか、そういう風にごまかすんだよ」
ぼりぼり頭を掻くと銀時はしょうがねえな、お堅い副長さんはよ、と言いながら紙袋を渡した。
「分かればいいんだ」
土方はにやりと笑って紙袋を取ると、中身を取り出した。
その瞬間、土方の表情が凍りつく。
「あ〜あ〜土方さん、旦那の性癖思いっきり暴露しちゃいましたねぇ」
旦那ってこういうのが趣味なんですかい、と沖田が恥ずかしげもなく聞く。
「趣味…う〜ん、俺はおとなしいのが好きなんだよね…こういう何も知らなそうな…おい、土方君耳まで真っ赤だけど」
「気持ち悪いでさあ土方、カマトトぶりやがって童貞でもあるまいし」
「…!!だれが童貞だ総悟コノヤロー!!」
ははは、と銀時は笑うと、土方の肩に手をかけて言った。
「そんなに気に入ったなら、貸してやるよ、マア、又貸しだけど。いつでもいいから、返すの」
ひらひらと手を振って、銀時はそこを後にした。その後も、長谷川さんを探しているのかキョロキョロとしながら歩いている。
まだ耳まで真っ赤な土方をしり目に、沖田は旦那って自由ですねぇ…と呟く。
そのあと、あれ、といいながら路上に落ちている箱を拾った。
「なんですかねこれ…まさか…旦那の?」
土方ははっと気づいた。自分だ。自分があの時に落としたのかもしれない…あいつの…胸倉を掴んだ時に。
「総悟、貸せ」
土方は沖田から箱を奪い取ると、箱をまじまじと見ながら煙草に火を付けた。
「土方さん路上喫煙はやめて下せえ…あっ…そういえば、旦那って土方さんのことは名前憶えてるんですね…俺なんて一回もほんとの名前で呼ばれたことねえや」
土方は舌打ちした。心に何か、もやもやした黒いものが広がっている感じがした。それが何かは、今の土方には知る由もなかった…