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□7月22日お題:「あーん」
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昼下がり、茶屋の前を通れば漂う銀に気付いて足を止める。
「よぉ、副長さんじゃん。こんなとこで会うなんて、一服?」
舌打ちを一つすると、ニヤリ、楽しそうに笑う。
「…テメーの腑抜けた面見に来た訳じゃねぇ、仕事、だ」
何とかした言い訳も、柔らかい物腰に絡め取られてクスクスと笑うその声に霧散する。
「じゃあーさ、奢ってよ、一本」
「なんで俺が」
「俺、一文無しなんだよねーパチンコでスっちゃってさ」
軽くなった財布をパタパタと振り、ため息をつく万事屋。
「ったく、しょうがねぇな」
女将に一皿、と声をかけて煙草に火をつける。灰皿を隣に置いていく若い女に視線を流している万事屋に、少しの不快を感じながら煙を肺に取り込んだ。
…別にどうなりたい訳では無い。
それでもこの男に会いたくなるのは、自分の心の弱さなのだろうか、等と考えてみる。
「お待ちどうさま」
そう言いつつ団子の皿を置く女将に、軽くどーも、と言って此奴は串に手を伸ばす。そいつを美味そうに平らげながら、残った一串を俺に薦めてくる。
「食べなよ、副長さん」
「いや、俺は甘いのはー」
「疲れ取れるよ、はい、あーん」
団子を口許に向けられて狼狽える。
「要らねえ、そんな、甘ェのー」
じゃあ、と、万事屋は俺に串を渡して来た。
「じゃあ俺が食うから。俺に頂戴」
あーん、と言って徐に口を開ける、万事屋。その瞳はじっと自分を見つめていて、まるで試されているような気分になる。何をー?俺自身の心を、推し図られている様なー
「冗談ー」
躊躇いながらも、自然とそれは万事屋の口許に伸びていくー。
紅い瞳が、俺を見る。
そこから伸びた赤い舌、丸い団子に付いたタレを唇に纏って、淫靡にそれを絡め取っていった。
「ん、おいし」
ニヤ、とまた笑って、唇のタレを舌で拭いながら銀髪は俺を見る。
「土方君、顔真っ赤。何想像してんの?」
「ー、か、帰るっ」
慌てて財布から出した千円札を椅子の上に置いて、去ろうとするとその手首を掴まれる。
「夜、俺んち、来なよ。ー待ってるからー」
「ー約束は、出来ねぇ」
半ば逃げ帰るように、俺はその場を離れる。心臓の音が、激しくて胸元を押さえる。何故ー何故、この気持ちを気付かれたのだろうー?ずっと心の奥に秘めていこうと思った、この想いをー。


その夜、万事屋にて。
「…絶対、来ると思ってた、土方ー」
「よ、万事屋、俺…は…」
「知ってたよ、俺の事見てたのーあんな目で見つめられたら、俺だってさァ…」
衣擦れの音。
そこから始まる水音。
止まらない、二人の熱情ー。
「ほら、あーん、して?今ならいいでしょ?」
口腔までも満たされて、俺は歓喜する。
銀髪の願いを、叶えてしまう弱い俺ー。強烈な一夜を、めくるめく銀色と共に。それはきらきらと光って、脳裏に焼き付いて離れない俺の恋情。
「よろず…や…」
耳許に囁いて、甘く蕩けていく儚い一瞬に、身も心も溺れていった。



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