パラレル

□SEE YOU
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寒さも和らいでいき、とうとうこの日がやって来てしまった。
 朝から体育館で、職員たちは花の配置に躍起になっていた。
 自分はそれを、ぼんやりと見つめる。
 三年生の卒業を経験するのは初めてではない。自分にとって、今回のクラスは特別だった。土方がいる、という理由だけでは決してなかった。
 「坂田センセー、寂しそうですね」
 声を掛けてきたのは隣のクラスの担任長谷川だった。
 「そうですね、なんつーか…俺には特別だった」
 「はは。そういうクラスって、やっぱりありますよね。俺なんかもまだ忘れられないときありますよ。皆、何してんのかなーって」
 俺だけじゃなかったのか、と思うと少し気が楽になるが、俺にとってはもう一つ、土方という存在があった。
 土方の気持ちをあの時知ってしまって、自分の気持ちを言えない状態でここまで来た。
教師で男という最悪な状況の中で、一体俺は土方に何ができるのだろう。いや、そもそも俺はどうしたいんだろう…
「いやー、俺はね、結局生徒と結婚したから何も言えないんだけど…」
「えっそうなんですか」
「そうなんですよ〜」
長谷川はニコニコと嬉しそうに指輪を見せてくる。
「なんだ。のろけか…」
「悪いね」
俺は笑って、長谷川の話すのを聞いている。
「生徒でも、やっぱり好きなものは好きだったんだよなあ」
「…」
自分の気持ちはどうなんだろう。
土方は、きっととても悩んでいたのだろう。あのとき、カラオケに来たのは、その気持ちを払拭したかったのかもしれない。自分が鈍感すぎたのだ。
徐々に会場ができてくる中、学級委員がそれぞれ手伝いに来た。
「坂田先生、何か手伝うことありますかィ」
「いや、もう大丈夫。お前ら準備があるだろ。教室戻っていいぞ」
「分かりやした」
沖田は上履きの後ろを踏みつけた状態でペタペタ歩いていく。コイツは、いったい俺たちの事をどういう目で見ていたんだろう。
そもそもあれから俺は土方と一言も話していない。
「あ、沖田君―その」
「何ですかィ」
「土方君って、今日は」
「あー。先生喧嘩でもしたんですかィ?土方さんはあんまり口も利かねェですぜ。機嫌悪い、って顔に出てまさァ」
「…そっか…」
「…」
沖田は黙って俺を見つめている。
それから大きく息を吸って、話してきた。
「先生、あの人にしっかり話してやって下せェ。俺達、そんなにやわじゃねェ。その方が心にずっしりきまさァ」
「沖田…」
やっぱりこいつは気付いている。
「待ってるはずでさァ。アンタの言葉を」
沖田のその言葉を、俺はしっかり噛みしめた。
本当は、今の俺の気持ちはしっかりと分かっている。それを、土方に伝えることの重さから、逃げて来たのだ。
でも、土方はー。
 逃げないで、しっかり向き合ってきていた。俺と関わろうとしていた。あの時の間接キス。それがあいつの、精一杯の…
 「分かったよ」
俺は、沖田の栗色の髪をポンポンと叩いた。
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