パラレル
□SEE YOU
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八時になると外は随分暗かった。
さっき来た時に比べると更に風が冷たい。まだやっぱりコートは必要だった。肌寒いので自分の腕を身体に宛がって、路地裏にあるブロックの段差に腰かける。
どうも、やっぱりああいった雰囲気は苦手だ。まず女がうるさいし、どうにも銀八が気になって自分の心がざわつくのが嫌だった。
スマホの画面の、冷たく変わらない感じを見るとホッとする。自分に関わろうとする奴らとどう接していいか分からなかった。
タバコでもあればよかったが銀八が来るのだ、そんなもの持っていてはなんて言われるか分からない。
俺はふう、とため息を吐いた。
自分の気持ちはとうに分かっている。でもどうしていいか分からない。別に思いを伝える気もないし、先生とどうなりたいという訳でもない。でもこの辛さはどうだ。他の奴が先生に触れただけで全身がざわつく。そう、まるで自分が触られたかのように思う。
俺の中で、どんどん銀八の存在が色濃く存在していく。それを止められなくて、でも自分ではどうしようもない無限ループの中に俺は、いる。
路地裏から覗く人ごみを眺めて、自分がどんな酷い顔をしているのだろう、と想像した。嫉妬に歪む顔を、銀八に見られたくなかった。
「何してんの、こんなとこで」
突然話しかけられて、俺はびくっと身体を揺らす。
途端に心臓が高鳴る。銀八だった。
「さみーなァ、何で土方君こんなとこにいるの」
「いや…俺は、その」
どっこらしょ、と言って銀八は俺の腰かけているブロックに割り込んでくる。隣から先生の体温が伝わる。心臓の音がうるさくて、俺は聞こえないだろうかと心配になった。
「先生こそ、何で」
途切れ途切れにしか話せない自分を恥ずかしく思いながら、俺は先生の顔を見る。先生は、おもむろに煙草を取り出していた。
「コレだよ、コレ」
銀髪を揺らし、タバコを咥えながら言うその姿に俺はくらくらと眩暈を覚える。反則だ。
「ああ、極楽」
「…おじいちゃんですか」
俺の言葉に先生は柔らかく笑ってくれた。
「…カラオケ、つまらなかった?」
俺は首を振る。言えない。まさか先生の隣の女に嫉妬したなんて。
「それとも…近藤とお妙に嫉妬…とか」
意外なことを言う銀八に俺は耳を疑う。
「そんなこと、無いです」
俺は笑った。
「えっ…違うの?ふーん…じゃあ何で」
銀八は驚いたように目を丸くする。先生の指の隙間の、挟まれた煙草にまで嫉妬してしまいそうだ。
「猿飛と先生に、ですよ」
そう言うと心の奥が苦しくて、俺は煙草を奪い取る。そしてそれを口に咥えた。
「あっ、おいオメー…」
スパっと一服ふかして、俺は煙を銀八に掛ける。それから煙草を先生に返した。
「…何してんの、土方君。そんなことしたら…」
はは、と俺は悲しく笑う。そして、間接キスですよ、と言った。きっと俺は泣きそうな顔をしているだろう。
精いっぱいの、今の俺の気持ち。
銀八は煙草を咥えて難しい顔をする。こんな顔は、今まで見たことが無かった。
「馬鹿みてーじゃん。俺も、お前も」
銀八の吐く煙が、路地裏に充満していった。
きっと今ので先生は気付いてしまっただろう、俺が先生に焦がれていることに。迷惑なのはわかっている。でも、こんなに近くにいるのに、止められなかった。
「俺、帰ります」
俺は銀八の顔を見られなかった。
ふかしている煙草の残り香を纏って、徐々に冷たくなっていく歩道を一人、歩いて行った。