パラレル

□SEE YOU
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「お妙さん!来てくれたんですね…俺は嬉しい!」
 「あらどうも。ゴリラさん…でしたっけ?」
 「近藤です…いい加減覚えてくださいよ〜」
 あはは、と笑う声。俺はそれを見つめていた。しかし近藤は本当にお妙が好きなのだと思い知る。羨ましい。俺も、あんな風に自分の気持ちを曝け出せたらどんなに楽なのだろう…
 「さあ、土方さん行きますぜ〜」
 沖田のお気楽な態度に俺は少しホッとしながら、大きなカラオケの部屋に入って行った。




 生徒についてきたものの、今時の子が歌う歌には全くついていけなかった。
 「先生、歌わないアルか?」
 中国からの留学生に気を使われているのが分かって俺は苦笑いする。でも生徒たちが楽しそうなのは嬉しい。もうすぐ別れが来るのが名残惜しい、心底そう思う。
 そっと土方の方を見ると、スマホを片手につまらなそうにしている。どうしてここに来たんだろう。こういう会に参加する奴には見えないのに。
 土方の目線が、ふと近藤にいっているのに気づく。ああそうか、コイツは近藤に頼まれれば断れないのだ。土方はいつも近藤に寄り添っていたような気がする。心の奥が焦れるのが分かった。生徒にこんなに嫉妬している自分が情けなかった。
 「先生、あたしと一緒に歌って」
 猿飛が再び俺の隣にやってくる。もう本当に勘弁してほしい。俺は猿飛のような女は好みではない。積極的な女は苦手だった。
 「ダメだ。オメーはクラスの奴と歌えって。俺ァもうー」
 「先生のその冷たいとこが好き!ねえ、もっと冷たく、蔑んだ目であたしを見て…」
 途端にキスを迫られ、俺は思いっきり猿飛の身体を突き放した。
 「いい加減にするアル、先生はお前みたいなアバズレは相手にしないアル」
 「あら、留学生だからって調子乗ってると…」
 「まァまァ。二人ともよしなせェ。喧嘩するところじゃねェ。二人でBzでも歌いなせェ」
 「私も歌います」
 「お妙さんまさかのBz好きなんですか?俺も、俺も歌いまーす!」
 志村や沖田、近藤が混ざってもう何が何だか分からない。
 全く、若いってのは本当にいいな、何でもできる。
 一連の騒動もお妙の熱唱で落ち着きを払い始めた頃、俺はふと見ると土方の姿が無いことに気づいた。
 何だろう。もしかして…
 お妙と近藤が仲がいいのを嫉妬したのか?
 俺は猿飛が止めるのも聞かず、トイレと言って外に出て行った。
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