パラレル

□SEE YOU
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夜の街に出てくると、まだ少し肌寒い。
 不本意ながらこの場所に出てきてしまった。銀八が来る、という情報に釣られてしまったのだが、本当に来るかは自分にも分からない。沖田が誘ったということだったが。
 駅前で待ち合わせをしている沖田は、まだ時間に来ない。それを、苛々しながら待っている。本当に、こういう時に限ってあいつは時間にルーズだ。俺は舌打ちをする。
 遠くから、背の高い男と低い男の二人がやってくる。
 よく見ると、一人は沖田だった。もう一人はえらくカジュアルな格好で、デニムに白いパーカーを着ている。白っぽい髪の毛が、特に目立っていた。
 「お待たせしやした、土方さん」
 沖田が言うので怒ろうと凄むが、隣にいた男の所為で俺は口が動かない。
 「…よお、土方君」
 「こんばんは…」
 思ったより声が出ていなくて自分でも驚いた。
 「どうしたんですかィ、てっきり待たされて怒ってると思いきゃあ…ああ、先生の所為ですかィ。そんなしおらしく…」
 俺は沖田のわき腹を軽く殴ると痛ェ、と言ってにやりと笑う。
 銀八は俺をじっと見ている。先生は俺の事を何と思ったろう。ホントこいつは余計なことを言ってくる奴だ。
 「私服、そんななんだ。何か新鮮だな」
 それは先生の方だ、と思うけど言えない自分がもどかしい。
 私服の先生がまともに見れなかった。
 「じゃあ行きますか。先生アッチですぜ」
 沖田が先生を案内していく。
 俺はその二人に後からついていった。 
 街路樹が芽吹いているのが分かって、俺はそこに目をやる。沖田の歩く速度は遅いので、ゆっくりと眺めることができた。もうすぐ春が来るのだ。
 「土方君さ。こういうの、よく参加すんの」
 「いえ、全くです。初めて」
 「へえ。俺が行っていいのか謎だな」
 「いや…いいと思いますけど」
 曖昧に返事をする。先生の顔がまともに見られなかった。
 先生として存在しているより、一人の男として隣にいることに俺は緊張しているのかもしれない。自分で言うのもなんだが自意識過剰すぎる。どうかしている…
 「生徒にカラオケ誘われると思ってなかった」
 「はは」
 俺が笑うと、先生も笑ってくれた。
 「…土方君、笑った方がいいよ」
 「え…」
 俺は、突然流れて来た視線に戸惑う。
 どうしてこの人は、こんな風に俺を見るのだろう。
 「…お前の笑った顔、好きだ」
 「―っ」
 何も言えなくて、俺は口元を手で押さえる。顔がにやけてしまうのではないかと思って心配になったからだ。
 反則、だ。
 どうしてそんな…もっと好きになってしまう。そんな言葉を掛けられたら。
 「…土方、俺は」
 何か言おうとしている銀八。不意に遠くから黄色い声が聴こえてくる。
 「せんせーい!」
 突然声が大きくなったかと思うと、長い髪の女が銀八に抱きついた。
 「ちょ、おまえ」
 銀八は露骨に嫌そうな顔をする。クラスの女、猿飛だった。
 「来てくれたのね〜っ、あたし、嬉しいっ!」
 「分かった、分かったから…取り敢えず、離れろ」
 体を銀八に擦り付けてくる猿飛を直視できず、俺は目を逸らした。
 「お前ね、人前でこういうことやめなさいよ」
 「ふふ、人前じゃなかったらいいってこと?せんせ、大好き…」
 「こらこら…おい!ホント…」
 俺は足早にそこから離れる。とてもじゃないけど見ていられない。前に進んでいた沖田が不思議そうな顔でこっちを見てきた。
 「何してんですかィ、土方さん。早く入りなせェ」
 そこはもうカラオケだった。他にもクラスの奴がいる。
 「おお、トシ来てくれたんだな!嬉しいよ、今日は楽しもう」
 近藤が俺の肩を叩いて中に案内する。でもすぐに、到着した志村に気づいてはそちらの方に行ってしまった。
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