パラレル

□SEE YOU
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「え、カラオケ」
 沖田といううちのクラスの子に声を掛けられて言われたのは週末カラオケに行かないか、だった。
 「あのねえ沖田君。それ、自分の友達誘わない?普通。なんで先生なのよ」
 「違いまさァ。卒業の記念に、です。皆受験で腐ってるから。息抜き」
 「うーんそしたらさァ。皆で行けばいいんじゃない?俺が行ったら校長になんて言われるか」
 へえ、と沖田は続ける。コイツは一体何を考えているのか読めないことがあるとぼんやり思う。クラスきっての策略家だ。
 「銀八先生は欠席、かァ…土方さんが残念な顔すんだろーなァ」
 えっ、と俺は思わず心の声を漏らした。
 「土方さん先生のこと気に入ってますからねェ。最後プライベートで会いたかったろうな、って思っただけでさァ。じゃあ俺はこれで」
 そんなことを言われるとつい、この想いに見返りを期待してしまう。頼むから言わないで欲しい。どれだけ自分が浅ましくもあの生徒に執着しているのか思い知るから。
 「土方君も来んの」
 「来ますねェ」
 にやりと笑って沖田は言う。
 全くコイツ、最初からこのつもりで…
 何が目的なのか分からない。でも土方のプライベートな顔を覗いてみたい、といった少し邪な気持ちが教師の自分を遮った。
 「…行くよ」
 「はは。ありがとうございます。これで女子も多く来ると思いますぜ。アンタもてるから。銀八先生。猿飛なんか襲っちまいそうだ、羨ましい。男冥利に尽きますねェ」
 ニヤリ、と笑って沖田は言った。
 こいつは何を探っているのだろう。取り敢えずけん制しておくのがいいだろうか。
 「へーそうなの?でも高校生にもててもねェ。若すぎて俺にはどうも」
 「へえ」
 沖田は不思議そうな顔をする。
 「土方さんは特別ってことですかィ。じゃあ、俺はこれで」
ラインします、と言いながら栗色の髪を靡かせ去っていく。
特別、と言われて、確かにその通りだと思う自分がいた。
でも同時に、特別だけではない感情がふつふつと沸き上がってくる。俺にとって土方は。今までのどの生徒とも違う…
 「…ったく、アイツ…何処まで知ってんだよ」
廊下を駆けて行く音がパタパタとこだまする。窓から差し込んでくる光が眩しくて、俺はもうすぐ春が来るのだと実感する。それは、もうすぐ土方という生徒との別れをも意味している。
俺は今日何回目か分からないため息を吐いた。
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